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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
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第41話 妖狐とぽん吉

現在ハジメ町近郊の野営場に残っているのは、リアム、空、美加、雅閻魔、左鬼、そしてキールを含む六人の冒険者たち。そして、悪魔祓いを受けた第一師団兵士五人は、未だ気を失ったままであった。


その時、かすかに唸り声が漏れた。アイアン・メイデン改による拷問から昏倒していたキールが、うっすらと目を開けたのだ。


「……すみませんでした! 閻魔大王様、申し訳ありません!」


空気椅子の姿勢のまま、上半身をくの字に曲げて膝に頭を擦りつけるキールに、雅閻魔は氷のような視線を落とす。


「……ふむ。考えを改めたか……。では——」


しかしキールの内心は、従順とは程遠いものだった。ただ命を繋ぐため、逃げる機会を伺っているにすぎない。仮初の忠誠を装いながら、脱出の糸口を探っていた。


リアムが一歩前に出る。


「雅閻魔様、ここは私にお任せください。イザーナ様とエリア様は“魔獣にさらわれた”ことにして、キールたちを使う芝居を打ちましょう」


キールも即座に反応する。逃亡の口実になるならと、頷いてみせた。


「分かりました!」


だがその瞬間、雅閻魔の一言がキールの顔を引きつらせた。


「逃げようとすれば……アイアン・メイデン改が待っておるがの」


「……心得ております」


リアムの狙いは、イザーナの命を守ること。そのためにはハリアの目を欺き、信頼できる“証人”を用意する必要があった。もし第一師団の兵士たちが“皇女が魔獣に攫われる”瞬間を目撃すれば、ハリアの関心は魔獣へと向けられるだろう。


「では、魔獣役と見張り役を呼ぶとしようかの……妖狐! ぽん吉!」


雅閻魔の声が地に向かって響くと、大地がぬるりと歪み、そこからぬっと現れたのは二人の妖怪——


一人は、妖狐。人の姿をした九尾の狐で、黄色の髪はお尻まで流れ、狐耳が揺れていた。おしりには豪奢な一本の尾を持ち、首には八本の小さな尻尾をあしらった首飾りをつけている。美貌は人ならぬ艶やかさを持ち、幻術と妖術に長け、目を合わせた者の心を操ることすらある。


もう一人は、妖狸(ようり)・ぽん吉。まるで着ぐるみのような丸っこい体躯に、大きな目ととぼけた口元。道を惑わせる術や幻覚を見せる変化の術に長けており、悪戯好きで子どもたちに愛されている。団子と酒が大好物の、どこか憎めない存在だ。


「ん〜、地上は久しぶりや〜」

「雅様〜お呼び頂きホンマにありがとうございます〜」


雅閻魔はこれまでの経緯をかいつまんで語ると、妖狐は唇を吊り上げ、ぞくりとするほど妖しい笑みを浮かべた。


「色欲のアスモタンなら、うちの妖術の餌食にしたるわ〜」


「いやいや、戦うために呼ばれたんちゃいますよ〜」とぽん吉が苦笑するも、妖狐は聞く耳を持たない。


「同じまやかしの術を使う者同士、勝負せんと気が済まん!」


「ほんま、かなわんわ……」


雅閻魔が手を一振りすると、空間が揺れた。


「変化の対象は、今は天空門の屋敷におる。見てまいれ」


「おおきに〜!」


二人の妖怪は即座に消え、数刻後——再び姿を現したときには、巨大な聖獣・ライガーを伴っていた。


ライガーは白銀のたてがみを揺らしながら一礼する。


「攫う役目、承りました」


雅閻魔、左鬼、空、美加、リアムの五人は、妖狐の術により姿と気配を完璧に遮断され、距離を置いて隠れる。


「ぽん吉、お前が皇女役な?」


「え〜!? 妖狐はんの方が美人やし合ってますやん!」


「姫役は性に合わんのや!」


「……わかりましたわ、ほな……ぽんとな!」


ぽん吉は変化の術で見事にイザーナの姿へと変身。妖狐もまたエリアそっくりの姿を取り、そそくさとライガーの背へと乗る。


「あ〜ズルいで〜。ワイが咥えられる役やんか〜」


「早い者勝ちや!」


「も〜、ライガーはん、優しく頼みますで?」


「善処しよう」


「ほな……始めよか」


妖狐の術が発動されると、眠っていた第一師団兵士のひとりが、うっすらと目を開けた。


「うーん……ここは?」


「起きたか!」キールが声をかけ、芝居の幕が切って落とされる。


「前を見ろ! 魔獣だ!」


兵士の視界に飛び込んできたのは、巨大な白い魔獣役——ライガー。その背には気絶したエリア(妖狐)が横たわり、口元からはイザーナ(ぽん吉)が目を瞑って、衣服の背中部分を噛まれてぶら下がっていた。


「うおっ、これは一大事だ! お前たち、起きろ!」


他の兵士たちも次々と目を覚まし、事態に狼狽する。その間に、ライガーは一同の視線をしっかりと捉えたうえで、北東樹海へと跳躍し飛び去っていく。


「くそっ、皇女様とエリア様がさらわれたぞ! 俺たちは追う! 兵士たちはハリア様にこのことを報告しろ!」


キールの命で、兵士たちは馬を駆り、馬車で一斉にシールド領へと向かい。

キールたちは全員でライガーを追いながら、北東樹海にある自分たちのアジトに向かうのだった。


その背を見送りながら、左鬼は静かに言った。


「中々の迫真の演技でしたな」


「ふむ、なかなか愉快だったの」雅閻魔が微笑む。


リアムは一礼し、真摯に言う。


「後ほど改めて、ライガーさん達にお礼をいたします。ありがとうございます、雅閻魔様」


「良いのじゃ。どうせ奴らのアジトに潜入させようと思っておったからな」


そしてふと、雅閻魔は美加に視線を向けた。


「美加よ、ちと話がある。まずは“お空”じゃなく、“空”を見てみよ」


「……素敵です」


「そうではなく、その周囲をよく見るのじゃ」


美加が目を凝らすと、空を飛ぶ虫が、空の周囲に差しかかった瞬間——まるで吸い込まれるように、ふっと消えた。


「……!」


「見えたかの?」


「……消滅しました」


「そう。あれが、ルシフィスの真の力。すべてを消し去る力じゃ……」


「そんな……!」


「今は大丈夫じゃろうが、不安定になってきておる。そしてもう一つ、知らせがある。魄——生きておる」


「……まさか」


「何者かがコアを与えたようで、闇国側で動いておる。記憶も持っているようじゃ。目立たぬよう、粛々と計画を進めておる」


「……近いうち、相見えるのですね」


「覚悟しておくのじゃ。その時が来たらわらわも力を貸す」


「……ありがとう」


雅閻魔と美加の間で交わされたのは、もう一人のルシフィスの存在、そしてその圧倒的な力の片鱗を垣間見る瞬間であった——



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