第40話 色欲下級悪魔
騒動が収まり、キールは空気椅子のまま気絶した状態を保っていた。彼を除いたガレスたち仲間は、左鬼から与えられた鬼呪印によって服従の誓いを立て、今後は善行に尽くすと頭を垂れた。
雅閻魔は周囲をゆっくりと見渡すと、視線を凍りついたまま動けない第一師団兵士たちに向けた。彼らはエレノアのアイスピラーで体は凍りつき動けないでいた。
「さて、そこの兵士たちじゃが……美加」
名を呼ばれた美加は、「悪魔滅殺モード」のまま満面の笑みを浮かべて応じた。
「もうスタンバイ出来てますわ!」
氷に縛られた兵士たちは、恐怖で身を震わせ声を張り上げる。
「な、なにをする! 我ら、誇り高き第一師団なるぞ!」
「なにが“なるぞ”ですの。下級悪魔どもが!」
美加の冷徹な一言が突き刺さる。動揺した兵士たちは、態度を一変させ懇願を始める。
「は、羽根が六枚ある〜〜!? ……兵士と言うのは、う、嘘です熾天使様様! 我らはただの農民でして、鎧を着せられて……あ!そう言えば、そろそろ畑の収穫がありますので帰りま……」
「シャイニング・フィンガー!」
閃光が放たれ、美加の指先から迸る浄化の力が兵士たちに突き刺さった。すると、憑依していた色欲の下級悪魔たちが、悲鳴を上げながら飛び出す。
「うぎゃあああ! あっつ〜〜〜い!」
「即トドメですわ! モーニングスター!」
美加のモーニングスターの青白く光るトゲトゲ鉄球が、天から下級悪魔たちの頭上へと振り下ろされる。
下級悪魔たちはお互いを見合い、最後の瞬間に幻を見たように呟いた。
「見て見て〜……人間達が欲望のままにじゃれ合うあの姿……あれが……僕たちの理想郷……」
そして下級悪魔たちは頭上に光る青白い光を見て、五体が声を揃えて言った。
「一番星みーつけた♡」
直後、美加の一撃が炸裂し、悪魔たちは砂のように崩れ消滅した。
「フィニッシュですわ!」
高らかに決めポーズを取る美加。その足元では、悪魔祓いを受けた第一師団の兵士たちが、解かれた氷の中で気を失って倒れ込んでいた。
──あの場を支配していた悪しき気配が、すべて吹き飛ばされたような感覚。空気が一気に軽くなり、安堵の波がその場に広がった。
一方、雅閻魔は視線を転じ、裸同然で震えている商人たちに目を留めた。
「そしてそこで服を脱いでおる商人たちは?」
「わ、私どもはムドーに命じられ、ここへ食糧を運んでいたのです!」
商人たちは声を震わしながら返答し、その返答に、雅閻魔は少し首を傾げた。
「ふむ……嘘は言っておらぬようじゃが、どうするかの?」
リアムが一歩前へ出て進言する。
「その商人は私にお任せください。彼らは無許可でこの地で商いをしていた可能性もあります。収益没収のうえで、ルークの裁定に従わせたいと思います」
「うむ、了解じゃ」
そのとき、気を取り戻し麻痺が解けて動けるようになったエリアとイザーナが、雅閻魔のもとへ歩み寄り、深く頭を下げた。
「閻魔大王様、お初にお目にかかります。エレバン帝国第四師団近衛隊長、エリアと申します」
「エレバン帝国皇女、イザーナ・エレバンと申します」
「丁寧な挨拶じゃな。わらわは雅閻魔大王じゃ。よろしくのう」
「先ほどの地獄召喚は、まさに圧巻でした」
「お主たちには縁がないと願うが……復讐したくはないか?」
「私は……大丈夫とは言い難いですが、閻魔大王様にお任せしたいです」
「ふむ……ならば、しっかりと罰しておくとしよう」
エリアは頭を垂れたまま深く一礼する。一方でイザーナは、何かに怯えるように視線を彷徨わせた。
「私は……これから、どうしたらよいのでしょうか……」
兄・ハリアによる暗殺未遂。その危機が去っても、まだ命の危険は続いている──イザーナはそう感じ取っていた。
すると美加が上空を見上げて呼びかけた。
「ガブリール!」
その声に応じて現れたのは、下界担当の熾天使・ガブリールだった。
「美加お姉様〜! お呼びいただきありがとうございます〜! まあまあ〜、イザーナさん無事でよかった〜。エリアさんも無事でほんとにほんとに何よりだわ〜!」
「ガブリール様……まさか……あの、ティオーネ教団の……!」
「そうよ〜。あなたたちのこと、ちゃんと見守ってたわ。お話は、天空門のお屋敷でゆっくりしましょう。空様、よろしいかしら?」
「もちろんだよ」
「それじゃあ、エリアさんにイザーナさん、手を繋いで〜……ほいっ!」
「私もご一緒します!」
エレノアも加わり、三人は手を取り合って白いモヤの中へと吸い込まれていった。
商人たちは諜報員B子に食糧を手渡し、彼女はドーリと共にドリード王国へ向かう。一方、商人たちは諜報員Aの監視下、空のグラビティービット転移によって、ルークの待つミラー領主館へと送られて行くのだった。




