第37話 帝国皇女 後編
勇者王国を出発し各町村を訪問しながら五日後の午前中、イザーナとエリアを乗せた馬車が護衛を伴いハジメの町の近郊にある野営場へと到着した。
だが、様子がおかしい。
「……おかしいですね」
エリアは馬車の窓越しに外を見つめ、眉をひそめた。
「何がですか?」と隣のイザーナが問う。
「この時間、冒険者の一人や二人いてもおかしくない、テントなども張っていないですし……まるで人の気配がありません。魔物の襲撃があったにしては、その痕跡もない。不自然です」
「皆さん、ハジメの町で休憩してるとか……討伐依頼で出払っているだけでは?」
イザーナは微笑もうとしたが、その表情は次第にこわばっていった。
「……手足が、痺れてきました」
「私も……妙な感覚がしてきています」
そのとき、馬車の前方から馬に乗った兵士が血相を変えて叫んだ。
「ゴブリンだーッ! ゴブリンの襲撃だ!」
イザーナの瞳が揺れる。
「ゴブリン? まさか……」
「姫様……手足が……っ、痺れてきて……」
イザーナとエリアが馬車内で手足が痺れ始めて数分後、冒険者のキールが馬車のドアを開け、明るく声をかけてきた。
「イザーナ様、ご安心を! ゴブリンは退治しました」
「それはご苦労様でした……でも、なんか痺れが……」
「ゴブリン達がこの地になにか撒いたみたいですね。でもご安心を。解毒薬です」
キールは小瓶を差し出した。エリアもそれを受け取り、二人はまだなんとか動かせる手で、疑いもせずに口に含む。
だが、それは解毒薬などではなく、麻酔薬だった。
「……キール殿、なにか……おかしい……」
エリアの足の指先から感覚が無くなっていく……。
キールはニヤリと笑った。
「もう動けないだろう? 馬車内に仕掛けた麻痺ガスと、いま飲んだ麻酔薬で……もうお前らはお人形さん同然だ」
そして、キールはエリアの首元から神官や魔術師が持っている緊急脱出用のアクセサリーをむしり取る。
「これさえなけりゃ緊急転移もできまい。姫さんの分は、まだ配られてなかったな? ま、あってもエリアを捨てて逃げる真似はしないだろうがな」
「……何をする気だ!」
「まだ声は出るんだな、この状況を見ればわかるだろう?」
キールはエリアを馬車から引きずり下ろし、外にいた仲間たちに声をかける。
「おーい、こいつは好きにしていいぞ〜! 俺はメインディッシュだからな!」
「エ、エリアちゃ〜ん!」
叫びながら走り寄ってきたのはガレスだった。彼は嬉々としてエリアを地面に仰向けに寝かせ、腰に跨がり、舌なめずりする。
「こんな事をして近くの冒険者達にすぐばれるぞ!」
「この辺りに、しばらく立ち入り禁止令が出てるから、だ、だ誰も来ないんだな」
「なんだと……どおりで誰も……」
「別の馬車に連れて行って楽しもうと思ったけど、見物人も現れたしこのままお外で楽しもうじゃないか〜」
ガレスが視線を右側に移すとミラー領の商人馬車が到着し。商人二人が馬車から降りて来た。
「そこの商人助けてくれ!ハジメ町に助けを呼びに行ってくれ!」
エリアはガレスが見ている方に視線をやり、商人に助けを求めたが、商人達はエリアを見てニヤニヤしながら服を脱ぎ始めた。
第一師団兵士五人もガレスから見て左側で横並びして一応周りを警戒しながら少しずつ鎧を脱いで行く。
キールの仲間達三人はガレスの後ろで順番待ちの体制に入った。
「皆 ぼ、ぼくたちの仲間だから言っても無駄だよ〜時間はたっぷりあるからね、その間、君は楽しまれ続けるのさ!」
「くっ!」
「ほらほら君の大切な姫様が、成人前に穴が空いちゃうね〜〜エリアちゃんはどうなのかな〜?穴が開いてるのかな?」
ガレスはエリアの軽銀製の鎧を小手からから少しずつ楽しむように取り始めた。
エリアな手をにぎにぎし、力が入っていない事を確かめつつガレスが
「ん〜綺麗な肌だね〜エリアちゃん、ぼ、ぼくは君を待っていたんだよ〜」
「クッ!……」
一方、馬車内のイザーナとキールの方は
「大人しくしていれば、傷は付けないからな。フフフ」
「エリア!」
馬車のドアは開いていて、イザーナからガレスに脱がされ始めたエリアの姿が見える。
「向こうの心配より自身の心配じゃないか?」
キールは馬車内で立ち、席に座るイザーナを下に見ながら服を脱ぎ始めた。
「こんな事をしてお父様やお兄様が黙っていませんよ!」
「おー怖い怖い。だが俺に命令したのは、お前のおにいさんだよ!」
「お兄様が………嘘です!」
「おや?お前は賢いと聞いていたが、亡くなった、別の兄ちゃん達の事を目を瞑って思い出してごらん?」
とキールは上半身裸になると、動けないイザーナの服を脱がし始める。
「嫌!やめて!嫌!嫌ーーーー!」
声で抵抗するイザーナの悲鳴が馬車の外に聞こえる。
「さすが極上品……綺麗な白い肌してんな……さぁ俺の子を……うへへぇ〜」
麻酔薬により、意識が遠のいていくイザーナとエリアの絶望の視線が空と天井を仰ぎ、エリアが最後に絞り出すように叫んだ。
「誰か……助けて……!」
そのときだった。
――「グラビティー・ビット!」
鋭い声が空気を裂いた。
直後、場の空気が変わる。すべての襲撃者の体がその場に縫い付けられたかのように動きを止めた。
「グラタン??誰だ変な事言ったのは!」
ガレスが仲間に問う。
「俺らじゃない! それよりも体が動かねぇ」
仲間三人が返事をすると
「アイスピラー!」
続けざまに放たれた氷の魔法が、兵士と冒険者たちの体を次々に包み込む。凍結された肉体がきしむ音が響いた。
「姉さん!」
エレノアがエリアに駆け寄り、手足が凍ったガレスを蹴り飛ばし、倒れたエリアを抱き起こした。
「これを飲んで! 解毒薬よ」
「エレノア……なぜここに……?」
「後で話すわ。今は……もう大丈夫だから」
「……助かった」
エリアは解毒薬を飲むと同時に意識を失った。そしてエレノアが姉を抱きかかえてイザーナがいる馬車の方へ向かう。
同じ頃、イザーナがいる馬車ではリアムと空がキールを取り押さえ、縄で後ろ手に縛り上げて。美加がイザーナの介抱をしていた。
「……間に合ったか」
リアムが息を吐き、馬車からキールを引きずり出し仲間の方へ連れて行く。
見張りで離れた場所にいた冒険者一人も諜報員Aに捕まり、襲撃に加担した者たちはすべて拘束された。キール、ガレス、他冒険者四名、第一師団兵士五名、商人二名――誰一人逃れられなかった。
「……こんな連中、すぐにでも断罪するべきです」
「ぼ、ぼくたちにこんな事をしてタダではすまないんだぞ!」
捕まってもまだ抵抗するガレスに、怒りを露わにするエレノアの拳が、ガレス顔面に振り下ろされる。
「ぐっ……」
「リアム様、後はお任せします」
「任された。姉さんたちを頼む」
頷いたエレノアは、エリアを襲っていたガレスを睨み。エリアとイザーナが休んでいる馬車へと向かっていった。




