第35話 商人馬車追跡 後編
商人馬車の件をリアムと雅閻魔に報告してから十五日が経過したある日の朝、空はリアムから「ギルド館まで来てほしい」との連絡を受け、美加と共に足を運んだ。
ギルド館に到着すると、職員のレアが二階の応接室へと案内してくれた。そこには既にリアムとエレノアの姿があった。
「空さん、待っておりました」
リアムが軽く頭を下げる。
「何か動きがありましたか?」
空が問いかけると、リアムはエレノアへ目線を向けた。促されたエレノアが、手元の書類を確認しながら話し始める。
「昨日、ハジメの町の冒険者ギルド総本部から通達がありました。明日から三日後、七日間にわたってハジメの町、野営場の使用禁止になり、また付近も立ち入り禁止となり。さらに野営場から半径一キロ以内での魔物の狩りも禁じられるそうです」
その話を聞いた空の脳裏に、ムドーが語っていた話がよぎった。
「食糧の受け渡しだけで、こんな大掛かりな封鎖が必要だろうか……」
リアムが眉をひそめながら呟いた、その時だった。
廊下からバタバタと音が立ち、応接室のドアが開いて、諜報員Cが息を切らして駆け込んできた。
「たいへんです、リアム様〜!」
焦燥の色を浮かべながら駆け寄ると、エレノアがテーブルにあった水を手渡す。諜報員Cはそれを一気に飲み干し、深々と礼を言ってから報告を始めた。
「エレバン帝国の皇女――イザーナ・エレバン様が、馬車で各地を訪問されるそうですと諜報員Dからの報せです」
「馬車で?」
リアムは首を傾げた。
「エレバン帝国には各領地や町へ行き来出来る転移装置がある。わざわざ馬車とは…不自然じゃないか?」
「それが非公式の訪問らしく、腕利きの冒険者たちを秘密裏に集めて動いているとのことです。詳細は諜報員Aが調査中です」
リアムが諜報員Aが調査中ならと納得すると、急に口調を変えて鋭く問いただした。
「そうか……それより、お前……この間、報告を忘れてただろう?」
「……この通りちゃんと頑張ってますから、どうかお慈悲を!」
平伏するように懇願する諜報員Cに、リアムは溜息をつきながらも微笑を浮かべた。
「まぁ、今回はよく知らせてくれた。次も頼むぞ」
「はっ、全力を尽くします!」
その場の空気が緩んだところで、エレノアが再び口を開いた。
「そういえば、皇女様は来年成人され、ティオーネ教団へ入信して修行されるとか。神聖魔法の素養があり、政治の才もあると評判で、次期皇帝に推す声もあるようです」
「それはどこからの情報ですか?」
リアムが鋭い視線を送ると、エレノアは
「第四師団近衛隊長、私の姉からです」と答えた。
それを聞いたリアムの表情が一変する。皇帝候補にイザーナ様の名が浮上しているとは予想外だった。
「では、非公式訪問についてお姉さんに確認していただけますか?特にハジメの町にいつ頃訪問されるかを」
「はい。聞いてみます」
しばらくしてエレノアが戻ってくると、さらなる情報をもたらした。
「すでに出発されていて、勇者王国を経由してハジメの町には五日後に到着予定。ミラー領には二ヶ月半後に来られるそうです」
リアムは椅子に深く腰をかけ、思案に沈んだ。
(……ハジメの町、野営場の立ち入り禁止は明日から三日後から七日間。商人馬車がそこに到着するのは五日後。そしてイザーナ様の到着も……。偶然にしては出来すぎているな……)
「……では、イザーナ様が到着予定されている五日後。ハジメの町又は野営場で何かが起きると見て動きましょう。四日後の朝に再度ここに集まってください。空さん、商人馬車のところに転移できますか?」
「ええ、問題ありません」
「助かります。詳しい話はその時に」
一同が了承し、ギルド館を後にしたその後――
なぜかその場に残っている、諜報員Cがなにをするのか黙って眺めるリアム。
そんなリアムを後目に諜報員Cは得意げに天井に向かって叫び始めた。
「へい〜!諜報員B子さん、カモン!へいへい〜!」
商人馬車を尾行していた諜報員CがAと交代しミラー領へ報告に向かう途中、諜報員B子から天空門から現れて、諜報員Cを天空門経由でギルド館前に送ってくれた経緯があったのだ。そのため、呼べばB子が天空門から現れると信じていたのだった。
「B子さん、次はハジメの町まで送って!Hey!」
その光景を目の端で捉えたリアムは、肩を落としながら一言だけ呟いた。
「やっぱ……ダメだこりゃ」




