第33話 握手会
空とミアは、美加の案内で能天使たちの活動を視察することとなり、ルークとカマイル達がいる、ルークと領民の握手会に来ていた。
朝焼けの中、ルークは町の広場に集まった領民たちの前に立ち、深く一礼する。
「朝早くから集まってくれてありがとう!皆の祈りのおかげで、妻のイザベラは順調に回復している!」
その言葉に、広場に響くような歓声が上がった。
「良かった〜!ルーク様〜!」
ルークは穏やかに微笑み、さらに言葉を重ねる。
「心配してくれてありがとう。今後も、皆の生活がより一層豊かになるよう尽力するつもりだ」
領民たちから、再び感動の声が上がった。朝の空気に響く大歓声は、ルークがいかに領民に慕われているかを物語っていた。
すると、広場の隅に立っていた衛兵が前に出て声を上げた。
「これよりルーク様との握手会を開催します!皆様、一列にお並びください!」
衛兵たちが整然と列を作らせると、ルークと領民たちの握手会が始まった。領主と直に触れ合う機会は滅多にない。領民たちは皆、緊張と喜びの入り混じった表情でルークと握手を交わしていく。
だが、この握手会には裏の目的があった。
「ありがとう!ありがとう!」
笑顔で手を差し伸べながら、ルークの内心は穏やかではない。シャイニングリストバンドを装着した彼の手に悪魔が憑依している者が触れれば、必ず「熱い」と反応する。それを見逃さず、近くにいる衛兵が安否を気づかいながら、能天使がいる治療テントに案内をする。また並んでいる最中に逃げようとしたり、怪しい動きをしている者は、諜報員B子が即座に記録し、カマイルに伝達する仕組みになっていた。
そして列にいた一人の男が、ルークと握手した途端、声をあげる。
「熱いっ!」
ルークの手を慌てて離し、男は手をフーフーし始めた。その姿を見たルークはすぐさま声をかける。
「大丈夫ですか?」
その言葉と同時に、近くに待機していた衛兵が素早く対応する。
「こちらのテントで診察を受けてください。どうかご安心を」
ルークは流し目で男の後ろ姿を確認しつつ、笑顔を作り直して次の領民へと向き直った。だが、その領民はやや躊躇していた。それを察したルークは、にこやかに言う。
「私の領地への熱意が伝わったのかもしれませんね」
その一言で場の緊張は和らぎ、領民は安心したように手を差し出した。
テントの中では、診療員に変装した能天使の僧帽筋と脊柱起立筋が待ち構えていた。
僧帽筋と脊柱起立筋は筋骨隆々で、僧帽筋は僧帽筋が発達しており、脊柱起立筋は脊柱起立筋が発達していて二人とも自慢の部位が白いシャツの下から見えていた。
そして男はムキムキな診療員を見て、逃げようと考えたが、怪しまれないためにやむなく診察を受ける事にし、大丈夫だとアピールした。
「いやぁ、大丈夫ですよ。ただちょっと熱いと思っただけでして……」
僧帽筋が穏やかな声で応じる。
「では、手を少し見ますね〜。――シャイニングクロー」
僧帽筋が男の右手を握り、技を出すとその瞬間、男の体から悪魔の気配が浮かび上がり、背中からにゅるりと小型の下級悪魔が姿を現す。
「熱いぃぃっ!!」
男の背後に立っていた脊柱起立筋が、無言でその悪魔の頭部を掴み――
「シャイニングアイアンクロー!」
下級悪魔は声を絞り出す。
「な、なぜ天使がここに……ギャーッ! ……ナイスバルク!」
筋肉の神々しさに打たれたのか、何とも意味深な言葉を残しつつ、下級悪魔はサラサラの砂になり消滅した。
「うわー、悪魔退治って結構グロいね……」
一部始終を見ていたミアが思わず呟く。
「今のはまだ綺麗な方なんだよ」
美加が冷静に応える。悪魔はしばしば命乞いをして油断させたり、不意打ちを仕掛けたりと、卑劣な手を使ってくるのだと説明され、ミアは顔をしかめた。
空が話題を変えようと、明るく言葉を挟む。
「でも、本当に悪魔っていたね。ミア、どれくらい潜んでると思う?」
「うーん、二十人に一匹くらいとすると、ミラー領は全体で百万人はいるから。ってことは……五万匹! 多いね!」
「さすがにそこまで多くないとは思うけど、それくらいの覚悟は必要かもね」
その会話を聞いていた僧帽筋と脊柱起立筋が力強く応じる。
「分かりました!バンバン握りつぶしていきますよ!」
「お任せください!」
一方で、握手会を途中で抜けた者や逃げるような素振りを見せた者は、変装した衛兵とカマイルにより速やかに追跡され、悪魔であることが判明した場合は、カマイルの厚い羽交い締めで滅殺されていった。
そして、美加は能天使たちの働きを確認し、任せても大丈夫と判断すると、空とミアと共にその場を後にした。
「では、次はミラー城塞からドリード王国までのトンネル調査、地上から編行こうか!」
トンネル調査はライガーがいないため、空がミアを背負って走ることになった。
ミアは地下空間を把握するスキルを用い、地上も地中も調査していく。さながら、ドクター列車のようだった。
「空にぃ、速いね〜」
「もっと速くもできるけど?」
「ダメ〜、見落としちゃうから!」
そんな会話を交えながら、三人は町村の陥没、井戸の水位、トンネル上の地盤状況などを調べて進む。日が暮れ、また進み、日が暮れる――調査は順調に進み、約一週間後にはドリード王国の近くまで到達していた。
「なんだかんだあったけど、スムーズに来たね」
「うん、ミラー城塞からここまで馬車なら一ヶ月半かかるのに……すごいよ〜!」
その時、上空を飛んでいた美加が何かを発見し、急降下して空の元へ降りてくる。
「空!商人馬車を発見しました!」
「了解。ミア、調査は一旦中止。商人馬車の様子を見に行くから、天空門へ戻っていて」
ミアは即座に天空門へと消えていった。
美加に後ろから抱えられ空は上空から、商人馬車を観察する。
「馬車は北へ向かってるから……このまま進むと、ハジメの町かな……」
ハジメの町――冒険者を志す者たちが最初に集まる町であり、勇者王国の南に位置する重要な地。ここから冒険者としての人生が始まる場所でもある。
「念のため、商人馬車にはグラビティビットを付けておこう」
空はその場で重力操作の小さな印を馬車に付与し、いつでも位置を把握し転移できるようにしていた。
「じゃあ、このことをリアムさんに報告しに行こう」
空と美加は、目印をつけた商人馬車を見送り、リアムへ報告に向かった――。




