第32話 鬼ヶ島
リアムに天使の雫を届けた後、ライガーと共に亜空間へ戻ったミアは、領主館から持ち帰った奇妙な置物――ドリード王国からの見舞い品だという置物をミア研究所で調べていた。
「これはもう、オカルトの領域だね……」
ミアは苦笑しながら呟いた。
「なにがだ?」
隣で様子を見ていたドーリが首をかしげる。
ミアはイザベラの寝室に置かれていた置物の、仕組みがさっぱりわからず、もはやお手上げ状態だった。
そんな中、ドーリが興味深げに置物を手に取る。
「あぁ、これは……魔植物のマンドラゴラに近いかもな」
「マンドラゴラ?」
「マンドレイクの根から生えるんだ。引き抜くと金切り声を上げて、聞いた者は気絶したり、中には霧が出てきて具合を悪くしたって話もあるぞ」
ドーリの説明を聞きながら、ミアがこれは除霊とかそういう類では?と考えていた時だった。研究室のドアがノックされる。
「はい?」
ドアを開けると、そこにはミニスカタイプのメイド服を着た人物が立っていた。
「初めまして。私は右鬼と申します。空様の許可を得て、この研究所から離れた場所に来ました。」
「これはご丁寧に……ありがとうございます」
「立派な研究所ですね。後ほど、私も研究に参加したく思います。その際は、どうぞよろしくお願いいたします」
「あっ……はい。こちらこそよろしくお願いします」
簡潔な挨拶を済ませた右鬼は、そのまま静かに立ち去った。
ミアは突然の来訪者が流暢に話していた事が気になり、マンドラゴラの置物をドーリに預けると、外にいたライガーを呼んで背に乗り、研究所の南へと飛び立った。やがて海が広がり、それを越えた先に——
「わぁ〜!南国の島じゃん!」
眼下に広がるのは、青い海、白い砂浜、そして緑豊かな森に囲まれた島。まるでガイアにあった南国の楽園のようだった。そして、その中央にはまるで時代錯誤のような城の姿があり、さらに鬼のツノを思わせる二つの山があった。
「この世の楽園みたいですな」とライガーが呟く。
ミアとライガーは砂浜に降り、内陸側にあるヤシの木の間に人影を見つけ、目を凝らす。人影の正体を確かめるため、ライガーと共に砂浜を歩いてヤシの木が並ぶ場所を抜けると、そこには赤鬼、青鬼、黄鬼……様々な鬼たちが働いていた。
「あわわわ!あの人たちって、地獄の鬼じゃない!?」
「鬼……つまり、死後悪事を働いた者を罰するという……」
「そっ、そうだよ〜!間違って地獄に来ちゃったのかも……ライガー、逃げよう!」
だが、ミアが慌てて逃げ出そうとしたその時、先ほどの右鬼が再び現れ声をかけてくる。
「おや?ミア殿ではありませんか。ようこそ、鬼ヶ島へ」
「へ?」
「本来なら空様が到着してからご説明する予定でしたが、我らは地獄の鬼でございます」
唐突に「鬼ヶ島」という言葉が飛び出し、ミアの脳裏に桃太郎のおとぎ話がよぎる。フリーズしたミアの顔の前で右鬼が手を振り、ライガーに視線を向ける。
「こちらへどうぞ。城にご案内いたします」
促されるままにライガーはミアを鼻でグイグイ押しながら進み、目の前に現れた城を見てミアが気が付き見上げて驚く。
「これって……お城!? こんな場所に……」
「和風をイメージした鬼城でございます。我が主のご所望で」
その時、ハモった犬の遠吠えが響き、ミア達のすぐ先に白いモヤが現れた。
人の大きさほどあるモヤの中から現れたのは、ベルベロスと、雅閻魔、左鬼の姿だった。
「右鬼、ご苦労じゃ。そちらの少女と翼を持つ獅子は?」
「こちら、ドリード王国の研究員、惑星ガイアからの転生者ミア・ムーア。そして、闇国側獣国ライネル国王、マンティス五世でございます」
「ふむ……わらわは雅閻魔と申す。よろしくな。おや、ミアは固まっておるな。マンティス五世は……無事か?」
「さすがは地獄の使者様、本名を知っておられるとは。今は空殿に頂いた名、ライガーを使っております」
「了解じゃ」
ミアは閻魔大王と聞いて、感動のあまり雅閻魔に抱きついた。
「ほんとにいたんだ……閻魔大王様……!」
「こ、これ!」
「ボク夢で見たんだ。ガイアで研究室を燃やしてボクを殺した先輩を、閻魔大王様が舌を引っこ抜いて地獄に落としてくれたのを」
雅閻魔はミアの言ったことを聞いて
(……ミア・ムーアは、惑星ガイアで研究成果を奪おうとした先輩研究員に、研究室ごと火をつけられ、火に包まれて命を落としたのだったな。ミアがイオに転生をする際、女神が、先輩研究員が地獄で裁きを受ける姿を見せたのだろうな)
「それで奴に……復讐したいか?」
「ううん。……もういい。あの夢が、いま本当だったとわかって、ボクは……スッキリしたよ」
「……そうか」
雅閻魔は、ミアが憎しみに囚われず前に進もうとしている姿を嬉しく思った。
「ここは地獄で働く者たちの癒しの島。疲れたら、いつでも来るといい」
そこへ、空と美加がミアを探して鬼ヶ島に到着する。空はなんかこの地に懐かしさを感じながら微笑んだ。
「ここは、地獄の方々のバカンス地なんだって」とミア。
「うん、いい場所だね。」
その時、少し思いつめた表情のライガーが、空に声をかけた。
「空殿……お願いがございます。実は私は、闇国側の獣国ライネル国王、マンティス五世と申します」
空は切実な願いだと思いすぐに事情を聞く
「なるほど……それで、お願いとは?」
ライガーは語った。ライネル国では、先代国王が魔王軍との契約を拒んだ結果、南部の穀倉地帯に異変が起き、作物が育たなくなって、現在深刻な食糧難に陥っている事でミラー領に支援をお願いしに行く途中で不死鳥神殿にいた事を話した。
「……急ぎ対応する必要がありそうですね。すぐに見に行きましょう」
だがその時、雅閻魔が手を上げて制止する。
「待つのじゃ。闇国側なら、わらわたちが手を貸そう。闇国側の主神はオモイカネ様じゃからの。右鬼、頼むぞ。ライネル国から必要な民を鬼ヶ島へ連れてきて、食料など作ってもらいライネルへ運ぶのじゃ」
「かしこまりました。それでは、まずライネル国へ参りましょう」
「ありがとうございます!」
雅閻魔の命で、右鬼はライガーと大陸北北西のライネル国へ向かった。
「世界は大変なことだらけだね……」
「うむ。誰かが誰かのために動いておる。それが世界というものじゃ。さて、わらわは仕事に戻るとしよう」
「また悪人さんたちをビシバシしてね!」
ベルベロスと共に、雅閻魔は黄泉の国へと帰って行き、左鬼は鬼城へ向かった。
「じゃ、宿泊所に戻ろう。明日はトンネルと商人馬車の調査だ」
空の言葉にうなずきながら、ミアたちは明日に備えて亜空間の宮殿へと戻っていく。
戻りながらミアが亜空間には色んな人が来ることから、天空門と名称をつけて空はそれを了承した。




