第28話 ミラー領事変 ⑥
ミラー領を乗っ取ろうとした中級悪魔ムドーは、雅閻魔の下僕となる運命を受け入れた。
そして時を少し巻き戻そう。
悪魔祓いを終え、気を失ったルーク・ミラーを空がライガーに引き渡し、ライガーは彼を担いでムドーの部屋へ向かう。そこでは、すでにリアム、カーター、レアが無事に救出されており、メイソンたちと再会の喜びを分かち合っていた。
「空殿から、この方を預かりました」ライガーが静かに告げる。
「ルーク! 大丈夫か、しっかりしろ!」リアムが駆け寄る。
メイソンは彼の様子を見て「気を失っているようだな。イザベラとエミリちゃんの安否も確認しよう」と提案した。
リアムたちはルークを担ぎ、イザベラの部屋へ向かった。イザベラの部屋でソファにリークを寝かせ、リアムは震えるエミリの前に跪く。
「大丈夫だよ、エミリ。もう、怖いことは終わったからね」
しばらくしてルークが微かに呻き、目を開けた。
「ここは……」
「ルーク大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
リアムはほっとしたように頷く。
「よかった。ルーク、これまでのことを話してくれないか?」
ルークは水を一口飲み、静かに語り始めた。
「二年前、シールド領から突然手紙が届いた。光鏡砲の使用停止を求める内容だった。無視していたが、ある日ムドーがハリア・エレバンの推薦状を持って現れた。調査の結果、推薦状も手紙も本物で……ムドーは参謀室に居座り始めた」
ルークの話は続く。
「使用人や衛兵が不自然にムドーに懐き始め、ドリード王国からの贈り物が届くと、やがてイザベラが謎の病で床に臥す。薬も魔法も効かず、私自身も体調を崩していった。その後は……記憶が曖昧だ。意識があるような、ないような……」
ライガーが静かに口を開いた。
「その者は、下級悪魔に憑依されていたようですぞ。ムドーは中級悪魔で、空殿と美加殿が対峙しておりました」
ルークは深く項垂れた。
「私が……情けない」
だがリアムは力強く言った。
「いや、妹を愛してくれたお前に感謝している。イザベラが生きてこられたのは、お前のおかげだ」
「リアム義兄さん……ありがとう」
続いてメイソンも力になれなかった事を詫び、エレノアたちも謝罪する。ルークは微笑み、声を強めた。
「皆さん、私は良き領主であれたことを誇りに思う。これからも、どうか力を貸して欲しい!」
「分かりました、ルーク様!」
一同は声を揃える。
「しかしイザベラは……」
ルークが病を患い寝ているイザベラを見ていると、ミア・ムーアが部屋に入って来て、小瓶をリアムに差し出した。
「この薬を使ってみて!」
戸惑うリアムに、ミアは言う。「空にぃと一緒に作った万能薬! その名も“天使の雫”!」
『万能薬 天使の雫』はある特殊な製法にて作り出せる。様々な状態異常を治し体力魔力も回復する。製法は極秘のマル秘アイテムだ。
リアムはミアを信用しルークに渡し、ルークは即座にイザベラに薬を飲ませた。すると、その顔色がみるみる良くなり、ゆっくりと瞼を開けた。
「あなた……? エミリ……?」
「お母さんっ!」
約一年半ぶりに目を開けたイザベラに、室内は涙と感動に包まれた。
そのとき、ミアがふと棚の上の置物に目を留めた。「これ、ドリード王国からの贈り物って言ったけど、見たことないし……黒い霧が出てる!」
「まさか、あの黒い霧か!?」とメイソン。
ミアは言う。
「濃度は薄いけど、長期間吸えば影響が出る……これが病の原因かも」
怒りに震えるルークが置物を壊そうとした瞬間、ミアが制止する。
「壊したら仕組みが分からないよ。研究させて!」
「分かった。だがドリード王に許可を取るんだ」
「うん、ありがとう!」
ミアは置物を持ち、ライガーとともに亜空間へと姿を消した。
「……今の何? 消えたぞ」ルークは呆然とする。
メイソンがミアの行動を見て。
「あ〜ミアめ亜空間へ入る時、人目につかない場所でって忘れているな」
ルークが聞く
「亜空間ってなんだ?」
リアムが答える。
「私も詳しい事は分からないけど、亜空間はこの世界と違う場所で、天使様である空さんが管理しているらしい」
神官であるルークは顔色を変える。
「空さんが天使様? なぜもっと早く言わなかった!」
「すまん。ルークの様子がおかしかったから、黙っていたんだ。あと美加さんもだ」
ルークは立ち上がる。
「ご挨拶に行かなければ!」
「空さん達なら晩餐会場にいるはずだ、だが他に罠があるかもしれないから、慎重に行こう」
リアムが促し、ルークたちは慎重に晩餐会場へと向かった。
その頃――。
諜報員B子は、捕らえられた諜報員Aを探しに単独で地下牢へ向かっていた。
真っ暗な中、階段を降りきると、ロープの軋む音が耳に入る。
「A? いるの? 敵はいないよ、返事して!」
音は応えたかのように僅かに大きくなる。
「松明かロウソク持ってくるべきだった……」
と悔やみつつ、手探りで牢の扉を開ける。
暗闇の中、小さなテーブルに手が触れた。そこには運よくロウソクとマッチが置かれていた。
「丁度よかった……」
火を灯し、目の前に現れたその光景に、彼女は絶叫した。
「ぎゃああああああああっ!!」
牢の扉のすぐ前。猿ぐつわをされ、全裸で亀甲縛りにされた諜報員Aが上から吊るされていたのだった。
その叫びは、館中に響き渡った――。




