第26話 ミラー領事変 ④
ムドーが部屋を離れた気配を感じ取ると、リアムは静かに椅子を揺すり始めた。ギシ、ギシと微かな音を立てて椅子を軋ませる。
ギルド職員は監禁された時のマニュアルで、無暗に動かない動けば余計なヘイトを買うので大人しくすると習う。その事を思い出し誰かが鳴らしている音に、カーターとレアはどちらかが鳴らしていると誤解する。
(レア?暴れるなよ〜)
(カーター暴れるな!)
互いを誤解しながらも、実際に動いていたのはリアムだった。彼は音を使って衛兵などが近くにいないかを探っていた。
音を鳴らせば衛兵が必ず注意をしに来るはず。しかし今は廊下にも部屋の中にも衛兵の気配がない。リアムは静かに椅子の脚をコンコンと指で叩き、音の暗号を発した。
(大丈夫か……大丈夫か……リアム)
名を添えることで、誰が発信しているかを示す。先に反応したのはレアだった。
(大丈夫……大丈夫……レア)
続いてリアムも安心を返す。
(良かった。リアム)
(良かった。レア)
だがカーターだけはまだ気付いていなかった。意味のある音だとは思わず、ただ耳を傾けていた。リアムとレアは密かに意思を交わす。
(カーターは……リアム)
(馬鹿だから……レア)
(そうか……大丈夫、大人しく……リアム)
(了解……レア)
二人の間に静寂が戻る。カーターは相変わらず状況を理解していなかったが、自分の裸をレアが見ていると勘違いし、背筋を伸ばして得意げに座っていた。
その日の夕方、ムドーは領主館の厨房へと足を運び、晩餐の献立を確認していた。彼に仕える使用人たちは下級悪魔に憑依されていた。
「ムドー様、晩餐のメニューはこちらでよろしいでしょうか?」
「うむ、なかなか良いぞ」
「毒などは……?」
「要らぬ。毒を食らった天使など興が削がれる。まず、エンジェルコア(心臓部)を右手でえぐりとり、そのままかぶりつく。光汁がブシャーと溢れるのが醍醐味だ。エンジェルリングはカラリと揚げ、サクサクと軽快に。本体は尻からデーモンスピアで串刺しにして中からじっくり熱を通し、外はデーモンフレイムでカリカリに仕上げる!」
「かしこまりました」
ムドーは恍惚とした表情を浮かべ、舌なめずりしながら呟く。
(あともう少しで……アスモタン様に良き報告ができる……ムフフ、ムフフ)
そして遂に晩餐の時が訪れた。
「ようこそ!おいで下さいました!!!!」
(本当に来たーーーー!!悦!)
当主自ら出向いて元気ハツラツの挨拶に空は
「本日はお招き頂きありがとうございます。空と申しますこちらは美加。どうぞお見知りおきを」
「お二人のご活躍は聞いております。さぁ中へ、ジュル」
二人の姿を見て見習い天使と確信したルークに取り憑いた下級悪魔が思わずヨダレを垂らした。
晩餐会場へ向かっている間に
(空・・悪魔臭がプンプンいたしますわ)
美加は念話で空に話しかけた。
(他の衛兵と使用人に取り憑いた下級悪魔は排除出来たけど、こいつが親玉?)
(いえ・・こいつも下級悪魔ですね。本命は参謀の方だと思います)
(そうか、じゃ会わないわけにはいかないね)
(今すぐにでも滅したいのですが・・・)
(いやいや、もう少し我慢して)
美加はゴキブリと悪魔は大嫌いだった。
実は空達が領主館を尋ねる前、ムドーが使用人とエンジェル料理をあれこれ考えていた間に。
亜空間から領主館へ潜入して美加が衛兵と使用人の悪魔祓いをし、メイソンが正気に戻った衛兵と使用人に説明して、ルークとムドーに操られている演技する手筈になっていた。
晩餐会の前には、ムドーと一緒に居る使用人以外は皆正気に戻っていた。
「おい!晩餐会始まったら誰が訪ねて来ても通すなよ!」
「はっ!」
ルークは晩餐会場外の演技中の衛兵に命令して晩餐会場に入った。
そしてルークとムドーが晩餐会場に入ったのを見計らって、メイソン・エレノア・諜報員B子がリアム達の救出に走る。
「こちらはムドーと言いまして私の参謀を務めております」
「以後お見知り置きを!ジュルル・・おっと失礼!」
「さ・・さぁ空さん美加さんどうぞお座り下さい!」
「分かりました」
「あまり大層な物ではありませんが、どうぞお召し上がりください」
「それでは失礼して・・こってりしていて美味しいですね」
「そうでしょう、そうでしょう〜」
(お前達天使の味を引き立たせる男性型にはこってり系、女性型にはあっさり系です・・・ヒヒヒ)
「あっさりしていて美味しいですわね〜」
ムドーが毒入りを断った為。普通に美味しい料理と飲み物が出てきた。
「食べながらで構いませんが、空さん達はなにをしに下界へ?」
「私達はティオーネ様から下界を見学して来てくださいと言われまして」
「そうですか・・・」
「ええ」
「樹海で起きた事は知っていますか?」
「知ってますよ!当たり前です!」
空は突然領主に対してワザと強い口調で返事をしたけど、ルークに取り憑いた下級悪魔は、早く見習い天使を食べたくてそれどころでは無かった。
「そうですか。私もあんな事件があり心痛めております」
「心痛お察しいたします」
「ありがとうございます。さぁ間もなくメインディッシュとなります」
ルークが使用人を呼ぶベルを鳴らすと使用人二人がメインディッシュを持って会場に入って来た。
「こちらが当館自慢のメインディッシュになります〜〜〜!」
使用人二人が運んで来たのは紫色でツヤツヤした二本の長槍と、それを立てる台座、深い鍋には油がたっぷり入っていて、コンロは丸焼き用の横長のコンロだった。
「これから用意されるのですね?」
「その通りです〜おい!」
使用人二人に準備を命じ。二人は紫色のツヤツヤ槍の矛先を上にして台座の上に突き立てた。
まるでメインディッシュを下から串刺しにするかの様に・・・
そして鍋に火を掛け調理の用意が整うと使用人二人が、空と美加の後ろのやや離れた場所に立った
(空、来ますわよ)
(分かった。先にグラビティビットで動きを止めて置く)
(分かりましたわ。私はルークに取り憑いた悪魔を殺りますので、空はシャイニングフィンガーで後ろの使用人2人に取り憑いた悪魔祓いを)
「あの〜ルーク様?食材が見当たらないのですが?」
と空が白々しくルークにメインディッシュの食材がない事を尋ねると。
ルークは徐ろに席を立ち上がり空達の方を指差して
「分からんのか?食材はお前達だぁ〜〜ヒヒヒ〜ジュル」
「私達が食材ですか?おっしゃる意味が分かりません」
「まだ分からないのか見習い天使どもよ!この晩餐のメインディッシュは天使の丸焼きなんだよ〜イ〜ヒッヒ!」
「そうなんだ」
空はここでルークが動け無いようにした。
「ふふふ。恐怖ですくんでいるのか?分からせてやる!おい!」
使用人二人に空と美加を取り押さえるように命じるルークであったが
空は直ぐさま立ち上がり、振り向き、動けなくした使用人二人の胸にシャイニングフィンガーを当て
「シャイニングフィンガー!」
「ギャーあっつ〜い」
と言いながら使用人の背中から下級悪魔が飛び出して来て、空は飛び出してきた下級悪魔の頭を左手で一体、右手で一体と掴み、二体同時にシャイニングフィンガーでサラサラの砂に変えた。
「ぎぁぁぁー」
「へ?」
「お、おい!見習い天使相手に何をやっている!」
「おのれ!私が始末してくれる!」
そう言ってルークが空に攻撃をしようとしたが、既に空のグラビティビットで体が動かなくなっていた。
「うーうー」
「なにをしている早くやってしまえ!」
「うー体が動きません!」
「こうなれば私自ら殺ってやろう!」
と意気込むがムドーもグラビティビットの影響で動けない。
「おのれ〜小癪な!おい!衛兵達!衛兵達!」
とムドーは晩餐会場外の衛兵がいるであろう出入口付近に声をかけた!
すると入口のドアが開いた瞬間
「その二人は領主に逆らう反逆者だ!捕まえろ!」
そう言って少し安堵したムドーとルークの目に映ったのは衛兵では無く白いマンティコアだった。
白いマンティコア。そうライガーは使用人二人がメインディッシュを持って入った後ドアの前で演技中の衛兵と待機していた。
ライガーは晩餐会場に入ると悪魔祓いされて気絶した使用人二人を咥えて静かに晩餐会場から出ていった。
ポカーンと呆気にとられたムドーとルークに美加が
「さて!!お仕置の時間ですわ!」
美加の全身が青白い光を放ち悪魔滅殺モードへと変わっていく、まずはルークにとり憑いている下級悪魔から。
「ハハハ済まなかった。今までのは君達の実力を試すテストだよ!テ・ス・ト!」
「悪魔の言う事に聞く耳はありませんの」
「分かった君達の待遇を上げようじゃないか?領主殺しは天使と言えど重罪だぞ?良いのか?」
美加の背中に青白い翼が2枚
「ほら〜君達見習いなんだろ?女神様の所に帰る時間だよ?未成年者が夜領主の家でウロウロしちゃいけません!めっ!なんちゃって」
美加の背中の翼が4枚
「ひっ!見習い天使じゃなかったでしたか、そうですか。僕がお家に帰らなきゃ、てへぺろ」
美加の背中の翼が6枚
「ヒィィィ熾天使か〜〜い!熾天使様様。僕はそこのムドーなる色欲の中級悪魔に操られて居たんです。どうかどうかどうか!お慈悲を〜」
「シャイニングフィンガー!」
美加のシャイニングフィンガーがルークの胸に当たると、ルークに取り憑いたペラペラ喋る下級悪魔が
「あっつ〜〜い!」
ルークの体から飛び出して来た。
「空!」
空は悪魔祓いされて気絶したルークを素早く回収して、ライガーを呼んで晩餐会場の外へ連れ出してルークをメイソンとリアムの所へ運ぶようお願いした。
これで晩餐会場内にはルークに取り憑いた下級悪魔と中級悪魔ムドーと空と美加だけになった。
「ヒィーお助けを〜」
「私。ゴキブリと悪魔は大嫌いですの!そうそうあなたみたいな悪魔にピッタリの物がありますわ!」
そう言って美加が取り出したのは
モーニングスター(通称・明けの明星)
モーニングスターは鉄棒の先にトゲトゲの鉄球が付いている殴打用の武器である。
美加が持っているのは、最高位天使ルシフィスが愛用した悪魔滅殺武器で、先端のトゲトゲ鉄球が青白く光輝く時、明けの空に輝く一番星に似ている事から。モーニングスターを明けの明星と呼ぶ様になった。
そして青白く輝く光の噂を聞いた悪魔達は、一番星が輝く明けと宵の時間を恐れる様になり。
誰かが 『一番星み〜つけた!』 と言うと悪魔達は一目散に逃げる様になったと言う。
「なんですか・・その棍棒は?」
「・・・一番星みぃ〜つけた!」
「ヒェッ まさか!それは!」
ここからは美加による悪魔滅殺の凄惨な殴打シーンとなりさすがの空も立ちすくんでいた。
「トドメですわ!!」
美加がそう言うとモーニングスターのトゲトゲ鉄球が青白く光輝き下級悪魔の顔面、目掛けて落ちて来た。
「ムドー様〜お助けを〜〜〜〜あっ!」
『一番星みーつけた♡』
そう言い残しボコボコになった下級悪魔はさらにサラサラの砂になり消滅して行った。
凄惨なシーンを見せつけられムドーは漏らしていた。
「次は中級クソ野郎ですわ!」
「待て!話せば分かる!私を滅殺すれば事件の概要を知る事は出来ないぞ!」
「悪魔共を全員ぶっ殺せば平和になりますわ!」
(まずい黒幕が分からなくなる)
空が美加を止めようとした時、犬の遠吠えが聞こえた。
低音「ワオーン!」高音「ワオーン」
とハモった犬の鳴き声が聞こえたと思ったら、床から鳥居見たいな門が上がって来た。
「待つのじゃミカイルよ」
鳥居門と同時に上がって来た大きな一匹の双頭の犬と鳥居門の中から現れた三人。
真ん中に立つ少女が美加に待ったをかけ。
少女の右側のメイド服を来た女性に。
「右鬼!(うき)」
と言うとメイド服の女性が空の元にやって来て。
「ルシフィス様ごめん!」
と言うと空が着ている服を一瞬で脱がし空はパンツ一丁になった。
「ちょっちょっと〜?」
そして空のパンツ一丁の姿を、美加が気が付き立ち止まって見ていた。
さらにどこからか分からないが着替えの衣装を次々に出して美加に見せて右鬼は
「ルシフィス様のファッションショー!パチパチパチ」
と盛大にアナウンスしたのに吊られて美加が悪魔滅殺モードを解いて空と右鬼の方に行き、空のファッションショーが開催された!
「危ないところであったの〜」
「お、お前は誰だ!」
ムドーの問に今度は少女の左側にいた、武士の着物を着て刀を所持した女性が
「控えおろ〜!この方を誰と心得る〜!泣く子も黙る。雅・閻魔大王様であらせられるぞ〜!頭が高い控え〜控えおろ〜」
「はっは〜」
ムドーは思わずかしこまった。




