第25話 ミラー領事変 ③
リアムは確信していた。ムドーとルーク──彼らは間違いなく“悪魔”だ。
見習い天使を喰らって力を得ようとする発言、それがその証拠だった。
(ジタバタしても仕方ない……今は体力を温存しよう)
彼は縛られたまま眠りについた。
そして翌日の昼過ぎ、リアムは目を覚ます。
(昨日、衛兵に“準備しておけ”と言っていたが……一体何を? 私はこのまま放置か?)
その頃、ムドーは護衛兵を連れ、ギルド館へ向かっていた。
ギルド館では、レアとカーターが出勤していた。
レアは昨夜、リアムが帰宅していないことを気にしていた。
「リアム様、無事だといいけど……」
「お前、自宅まで見に行ったのか?」
「うん、なんか……気になってさ」
「ふーん」
「なによ、その反応」
「いや、別に?」
と、そんな会話をしているところに、ギルド館の扉が開く。
「あっ……ムドー……!」
レアの顔が強張る。
「カーター、任せた!」
レアは奥へと逃げ、カーターが接客に立つ。
「いらっしゃいませ、ムドー様。本日のご用件は?」
「今日は二人だけか? メイソンや空とやらは?」
「メイソンと空さんは樹海へ向かったまま戻っておらず、本日は私とレアのみです」
その瞬間、ふわりと甘い香りが広がった。
カーターとレアはその場に崩れ落ち、深い眠りに落ちる。
「ふふ……これは良い前菜になりそうだ」
ムドーは満足げに笑い、護衛兵に命じる。
「この二人を私の部屋へ運びなさい。下着姿にして、椅子にしっかりと縛り上げるのを忘れずに!」
「はっ!」
「それと、しばらくギルド館を監視。誰か来たら捕まえ、来なければ玄関に鍵をかけてこの手紙を挿しておけ!」
命令を終え、ムドーはリアムのもとへ戻る。
「やぁやぁ、リアムちゃん。待たせたね。トイレは大丈夫だったかい?君の近くにいるのはカーターとレアと言ったかな……」
リアムの周囲には、夕方頃運び込まれた者がいた。
カーターとレア――ギルド館の職員たちだ。
(空さんと美加さんかと思ったら……まさかこの二人が……)
「メインディッシュは届かなかったが、前菜には丁度良い。ふふふ……」
リアムたちは下着姿で椅子に縛られ、目隠しと猿ぐつわをされていた。
会話はできず、お互いの様子もわからない。そしてムドーの気まぐれな“遊戯”が始まる。
まずはカーターの耳元へ──
「カーター君。君は今パンツ一丁だけどその姿を、レア君がじっくりと見ているよ? ふふ、興味があるんじゃないかな?」
(えっ?)
カーターの心がざわめく。
「君、レアに好意があるんだろう? それが伝わってるのかもしれないねぇ?」
その言葉に、カーターの鼓動が高鳴る。
(そ…そうなのか……!)
「ふふふ……羞恥心も性欲も、実に美味しい……」
ムドーは色欲を喰らう“色欲の悪魔”だった。
人の欲感情を刺激し増幅させて喰う存在。
次はレアへ──
「レア君。カーターが君のいたいけな姿をじっと見てるよ?」
(はぁ!? やめろ!カーター死すべし!)
レアは怒りと嫌悪感で顔を歪めたが、ムドーの狙いはそこではなかった。
「それより……リアムちゃんが興奮しているみたいだよ? ほら、あんなに……」
(……っ!)
リアムに好意を寄せていたレアは思わず体をよじり、羞恥に顔を紅潮させた。
(ムフー美味しい……美味しいわ……)
ムドーは次にリアムへ。
「リアムちゃん……レアが君の姿に興奮しているみたいだよ?」
リアムは無反応だった。
(違うか……では、別の攻め口を)
「イザベラ君の容態が──」
その名に、リアムの体がピクリと動く。
「やっぱり……イザベラ君に気があるんだね? 嬉しいような、ちょっと悔しいような」
ムドーの声は甘く誘惑に満ちていた。
「君が望むなら……ルークを闇に葬り、この地の領主になる事も出来るよ? 私と契約を結べば、すぐにでもね……」
リアムの心が揺れる。ムドーはそれを見逃さなかった。
(ムフフ……もう少しで契約が成立する……)
「今日はいい収穫だったよ。君たち三人の感情、とても美味しかった」
夜が更け、ムドーは立ち上がる。
「さて、そろそろ“メインディッシュ”の晩餐会の準備をしないとね」
「衛兵!三人には水を与えて、トイレは一人ずつ連れて行け!私の部屋を汚すんじゃないよ!」
「了解しました!」
ムドーは満足げに笑いながら、部屋を後にした。
その晩──空と美加が、ムドーの仕組んだ“晩餐会”へと招かれることになる。




