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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
24/101

第24話 ミラー領事変 ②

朝霧が残る静かな領都に、リアムと諜報員Aの足音が響いた。二人は、領主ルーク・ミラーからの手紙に従い、領主館を訪れていた。扉の奥、陽光が射す執務室でルークは待っていた。


「おはようございます、ルーク様。」

リアムが丁寧に挨拶をする。


「ああ、今日は何かあったか?」とルーク。


「昨日、衛兵から手紙を預かりましたので、参上致しました。」


「ああ、そうだったな。それで…樹海の様子はどうだ?メイソンの熊は治ったのか?」


その問いに、リアムは一瞬ためらった。空気が変わったように思えたのだ。咄嗟に言葉を選ぶ。

「メイソンの姿は戻っておりません。樹海も、未だ安定しているとは言えません。」


「そうか、それは残念だな。」

ルークは目を伏せて呟いたあと、顔を上げて続けた。

「そういえば、空とか言う若者はどうしている?」


「彼は樹海の調査に協力してくれており、敵意も害もないように思えますが……」


「だが油断するな。空という名は、ミラー領では聞いたことがない。」


「承知しております。十分に警戒致します。」


その時、ルークはふいに声の調子を和らげた。

「今日はな、日頃の礼を込めてシールド領から届いた酒を一緒に飲もうと思ってな。」


「午前中から……よろしいのですか?」


「ああ。遠慮はいらん。諜報員も共にどうだ?」


リアムは頷き、諜報員Aに呼びかけた。「いるか?」


「こちらに。」と現れた諜報員Aに、ルークは尋ねた。「君ひとりか?」


「はい。他の諜報員は樹海におります。」


やがて、ルークは自ら未開封の酒瓶を取り出し、三人のグラスに酒を注いだ。そしてためらいもなく自分の分を口に運んだ。


「おお、これは美味い。さあ、君たちも。」


その様子を見た諜報員Aもグラスを口にした。「これは美味しいですね。」

小さな声でリアムにだけ、「問題ありません」と囁いた。


「親愛なるリアムに毒など入れんよ。」

ルークが冗談めかして笑う。


「失礼しました。では……」リアムも口に含み、「美味しいですね。」と続けた。

しかし彼の心は落ち着かなかった。


「ルーク様、シールド領とはあまり交流がなかったように記憶しておりますが……」


「これはな、皇太子ハリア様からの贈り物だ。ムドーが預かってきた。」


「ハリア様から……」


会話が途切れた直後だった。ルークがふらりと立ち上がり、酒に酔い椅子に崩れ落ちた。


「衛兵! 衛兵はいるか!」


リアムが叫ぶと、どこからともなく漂ってきた甘い香りが、彼の意識を徐々に曇らせていく。


「しまった……そういうことか……」


そのままリアムと諜報員Aは、香の力で深い眠りに落ちた。


———


ムドーが領主の部屋へと姿を現した。


「まったく手間をかけさせおって……おい! 諜報員は地下の牢獄へ、リアムは私の部屋へ連れて行って椅子に縛り上げろ!」


「はっ!」


リアムはパンツ一丁の姿で椅子に縛りつけられ、目隠しと猿轡を施された状態でムドーの私室へと連れ込まれた。


やがて、リアムが起きる。


「おっ、起きたんだね〜リアムちゃん。嬉しいよ、早めに君が手に入って。」


ムドーの声は妙に甘く、気味が悪い。リアムは身動きできず、口も利けず、ただその声を聞くしかなかった。


「でもね、詮索はよくないよ? 嘘もついてたね? メイソンの熊、戻っていたんでしょ〜? まあ、いいの嘘も嫌いじゃないから。」


リアムを愉しげに眺めながらムドーは続ける。


「今日はたっぷりお仕置きしてあげるからね〜。私は君の小賢しい所が大好きなんだよ。その分諜報員から厳しく聞くからね〜。な〜にあの諜報員は最初からいなかったことにすればいいのよ。」


その時、扉が開いて衛兵が入って来た。


「ムドー様! 諜報員が自白いたしました!」


「うそ〜!? 早くない? ちゃんと確認した?」


「はい。空という若者と、美加という女性についてです……。」


「ほう……」ムドーの口元に邪悪な笑みが浮かぶ。「見習い天使、か……これは実に美味しそう。」


衛兵が退出し、今度はルークが目を覚まし部屋に入ってきた。


「リアムはどうだ?」


「これから……と言いたかったけど、明日の楽しみに取っておくわ。」


「ムドー様、私ごと眠らせなくても良かったのでは?」


リアムはその言葉に反応する。(ムドー様……やはり、支配されているのか……)


「あなたがグズグズしてるからよ! 感謝しなさい!」


そして話題は空と美加のことへ。


「見習い天使を食べれば、レベルアップ間違いなしよ!」


「私の分は……?」


「不味そうな女の方をあげるわよ。男性型は私がいただく!」


「次の機会にはぜひ私にも……」


「考えておく〜」


そう言いながら、ムドーとルークはリアムをそのままにして部屋を出ていった。


———


部屋に残されたリアムは、目隠しの奥で静かに思考を巡らせていた。


(天使を喰らって力を得る……悪魔か。だとすればすべてが腑に落ちる。問題は、どの悪魔だ……ルークの体を乗っ取って何を企んでいる?)


(第五魔王が誕生しているが、第二魔王のように光国へ進軍の動きは見えない。南東樹海事件と関係があるとすれば……)


(いずれにせよ、空さんと美加さんが鍵になる。頼むぞ、必ずここに来てくれ。お二人なら、この局面を打破できると信じてる――)


そう心に願いながら、リアムは束の間の眠りに身を沈めた。


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