第21話 リアム行方不明
エリックが地下トンネル調査の準備のため、ミラー領のギルド館へと戻っていった後――
ミアは、「亜空間に研究所を作る」と言い残し、トーリンたちと共にその亜空間へと姿を消した。
空、メイソン、そしてエレノアの三人は、南東樹海基地本部の地下空間への移転作業を手伝っていた。
引っ越しが完了したころには、すっかり夜になっていた。
その夜、かつて魔物化から救出された兵士たち五人が、新たに移転した地下基地本部兼宿泊所へとやって来た。
「助かって良かったな。今夜はゆっくり休んでくれ。明日からは警備や捜索隊に参加してもらう。体調が優れない者は、遠慮せずミラー領兵隊長に申し出ろよ」
そう語りかけるメイソンに、兵士たちは深々と頭を下げた。
「はい!ありがとうございます!」
彼らは礼を述べると、整然と兵隊長の元へ向かっていった。
「さて、俺たちも飯にしようか」
「そうですね」とエレノア。
「お腹空きましたね」と空も頷いた。
三人は新たに移転した三階建ての基地本部、その食堂で夕食をとっていた。
するとそこへ、ひとりの諜報員が、物音を立てずにメイソンへと近づいた。リアムの部下である、諜報員Bだった。
「メイソン様、取り急ぎご報告があります」
「ここじゃまずい話か?」と箸を止めるメイソン。
「はい、あまり人に聞かれたくない内容です」
「わかった。作戦会議室に移ろう。空さんとエレノアも一緒でいいか?」
「ぜひお願いします。むしろ、空さんには是非聞いて頂きたい内容です」
メイソンは頷き、エレノアと空も席を立つ。
四人は連れ立って、作戦会議室へと足を運んだ。
会議室の扉が閉まり、灯りがともされた静かな空間で、諜報員Bは真剣な面持ちで語り出す。
「リアム様と諜報員Aが、ルーク様に呼ばれて領主館へ向かったまま、戻っておりません。そして……ギルド職員のカーターとレアが、行方不明となっております」
「リアムと諜報員Aがルークに呼ばれるのは筋が通るが……カーターとレアまで?」とメイソンは眉をひそめた。
「はい。夕方、定期連絡のためギルド館へ立ち寄ったのですが……中は誰もおらず、もぬけの殻でした。その時、ルーク様の護衛兵が館へやって来たため、私は外に出て様子を伺いました」
「それで?」
「護衛兵はギルド館に鍵をかけて立ち去っていきました。そして、その際……玄関に手紙を挿して行ったのです」
「……何か手がかりは?」
「はい。館の中にはうっすらと甘い香りが漂っていました。おそらく、“幻惑の香”か“眠りの香”のどちらかです」
「……なるほどな」
メイソンは深く息を吐く。
「このタイミングで誘拐だなんて……まるで“何かある”と自ら告げているようなもんだな」
「まったくその通りです」とエレノアも頷いた。
諜報員Bは鞄から丁寧に折られた手紙を取り出し、メイソンへ差し出した。
「こちらが、ギルド館の玄関にあった手紙です」
メイソンは黙ってそれを受け取り、開封した。
手紙には、達筆な文字でこう綴られていた。
「空さん、美加さんへ――」
「リアムから、あなた方が“天使様”と伺い、大変驚いております。南東樹海の事件でメイソンが熊の姿になりながらも喋れるようになったこと、そして最近では元の姿に戻り、他の巻き込まれた方々も一部救出されたと聞き、深く感謝しております。
その功績への感謝とお礼として、ささやかではありますが、明晩、美味なる食事を用意してお待ちしております。お二人で、ぜひ領主館へお越しくださいませ」
――ミラー領領主 ルーク・ミラー
「どう思う?」とメイソンが手紙を置いた。
「……罠ですね」と、エレノアと諜報員Bが即答した。
「俺もそう思う。わざわざ“天使様”に触れてるあたり、よっぽど罠だ」
「でも、行かなければリアム様たちの安否を確かめられません」と諜報員Bが続ける。
「……それも事実ね」とエレノア。
沈黙が一瞬流れた後、空が真っ直ぐに顔を上げて言った。
「もちろん行きます。」
メイソンは驚きつつ、すぐに顔を引き締めて頷いた。
「空さん……リアム達を、よろしく頼む」
「きっと、リアム様も何か仕掛けているはずです。わざわざ招待状なんて、普通じゃありませんから」
「私は空さんがルーク様と会っている間に、他の行方不明者の捜索を行います」と諜報員B。
「俺とエレノアは呼ばれてないからな……空さん、その“亜空間”ってやつに、待機してもいいか?」
「ええ、案内しますよ」
「ありがたい!」
「もし良ければ、私もご一緒してよろしいでしょうか? 前々から興味がありまして、その……亜空間というものに」
「良いですよ。案内します」
申し出を了承してもらい目を輝かせる諜報員B。
「じゃあ俺は先に兵隊長に今起きていることを報告してくる。冒険者たちにも伝えないと」
そう言い残し、メイソンは重い足取りで会議室を後にした。
これから始まる駆け引きと、闇に潜む真実を前にして――
それぞれが、自らの役割を静かに引き受けていった。




