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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
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第2話 天空界

 神山空は、天空界で出会った武術家・揚老凛とともに、天空城を目指していた。


 その城が本当に「天空城」と呼ばれているのかは定かではない。だが、空の中では、その名がしっくりきたため、ひとまずそう呼ぶことにした。


 城の正門に辿り着いた空は、左右にある入口を見て目を見張った。青白くふわふわと浮かぶ何かが、列を成して門へと入っていく。


「揚さん、あのふわふわしたものは何ですか?」


「魂魄の魂、いわゆる“たましい”ですな」


 揚は平然と答える。


「へえ、あれが魂ですか。アニメや漫画で見たまんまの火の玉みたいな姿ですね。あの形を考えた作者、すごいな……」


 思わず感心して声を上げる空に、揚は首を傾げた。


「アニメや漫画が何かは存じませんが、命の灯火を具現化したものと考えればよいでしょう」


「なるほど、ですね」


 魂たちが入っていく門を指さし、揚は続ける。


「あれは裁判所の入口です。魂たちは、生前の評価――いわゆる魂の裁定を受け、然るべき場所へと送られます」


「天国とか、そういう所ですか?」


「そうですな。天国、すなわち“天界”はこの天空界のさらに上にあります。そこには光の女神様と、女神に仕える“光使”と呼ばれる天使たちがおります」


「光の女神様……会ってみたいです」


「ふふ、すぐに会えますよ」


 その言葉に、空の心は期待と緊張で高鳴った。


「天国があるなら……地獄も、あるんですよね?」


「ありますとも。地獄は人間界、すなわち“下界”の下に存在します。鳥居門から入ると“魔空界(黄泉の国)”に辿り着き、さらに地獄門をくぐれば“魔界”に至ります。魔界は、悪魔たちが生まれる場所でもありますな」


 空は興味津々に相槌を打った。


「なるほど、天国と地獄は本当に人間界の上下にあったんですね!」


「魂を持つ者が死ぬと、例外を除き最初に来るのがここ天空界。魂の裁定を受け、天界・天空界・魔空界・魔界のいずれかに導かれます」


「じゃあ私が天空界に来たってことは……生前は普通の人生だったんですね」


「そうですな。善き行いを積んだ者は天界へ、善悪どちらでもない者は天空界に。軽い悪事の者は魔空界へ、悪しき者は地獄へと落ちます」


 空は少し安堵しながら、自分の生前の人生を振り返った。良くも悪くもない、平凡な日々。それが、案外尊いものだったのかもしれない。


 やがて二人は天空城の入口に辿り着いた。玄関を守る見張りに軽く会釈をして中に入る。中央には上階へと続く階段があり、いかにも城らしい造りだ。高くない段差を上がり、すでに開かれた扉を抜けると中庭のような場所へと出た。


 その先にひとつだけ浮かぶ魔法陣があった。まるでエレベーターか転送装置のような装置だと、空は直感的に思った。


「これからどこへ行くのですか?」


「天界と天空界を守護する天使様の元へ参りますのじゃ」


「天使……優しい方だといいな」


 淡い希望を抱きながら魔法陣に足を踏み入れると、光が瞬いた。


 気がつけば、正方形の部屋にいた。中央にはテーブルとソファがあり、左右に扉が並ぶ。応接間のような雰囲気を持つその部屋の一角に、六枚の翼を持つ存在が立っていた。天空人とは違う風格を纏い、眼鏡をかけたその天使が、空に向かって声をかけた。


「ようこそ空。ここは女神様とコンタクトを取るための場所、天界と天空界の狭間にある応接室でございます。そして私は熾天使ウリイルと申します」


 ウリイルは揚に礼を述べ、退室を促した。


「空、中央のソファの前へお進みください。まもなく女神様が到着されます」


 空が促されるままソファの前に立つと、対面のソファの上部から眩い光が降り注ぎ、その中に一人の美しい女性が姿を現した。


「よく来ましたね、空よ」


「光の女神ティオーネ様で在らせます」とウリイルが紹介した。


「初めまして、ティオーネ様。神山空と申します」


「お座りなさい、空」

(……記憶はまだ戻っていないようですね)


 空は意を決して尋ねた。


「あの……女神様。私はどうして女神様や天使様にお会いしているのでしょうか? もしかして、何かやらかして天罰を……?」


 女神は微笑んだ。


「フフ……空よ、安心なさい。あなたは特になにもしておりません。些細な悪事で断罪していては、魔空界が魂で溢れてしまいますからね。私たちはその辺りを加味して魂の裁定をしているのです」


 空はホッと胸を撫でおろした。だが、その安堵は長くは続かなかった。


 女神がゆっくりと顔を向け、真剣な眼差しを向けてきたのだ。


「……空。心して聞きなさい」


 その声音に、空の心は不安に跳ねる。


「空――あなたは、天使なのです」


「……えっ?」


 頭の中で思考が一瞬止まった。冗談のはずだと願うが、女神の瞳は真剣そのもの。


「な、なにを……」


 言葉にならない言葉を口にした空を見て、ウリイルが静かに口を開いた。


「空。いや――“ルシフィス”。それが、そなたに与えられた天使としての名です」


「ルシ……フィス……?」


 耳にしたこともない響きに、胸の奥が妙にざわついた。


「そなたはかつて、創造神より名を授かった特別な天使でした。天空界と天界を自由に行き来し、人間という存在に深く惹かれていた……」


 ウリイルの声が、過去の霧を少しずつ照らしていく。

 空は理解が追いつかず、ただ耳を傾けるしかなかった。


「そしてある日、そなたは創造神の許可をもらい“惑星イオ”へ向かうはずでした。だが――」


「……だが?」と空は思わず問い返した。


「転送装置に飛び込んだ拍子に、いろんなスイッチを押してしまったのです。結果、転送ではなく“人間に転生”されてしまった。しかも行き先は“惑星ガイア”。記憶も失われ、そこで新たに人生を始めることとなったのです」


「……そんなことが……」


 空は唇を震わせ、視界が揺れるのを感じた。


 ティオーネが静かに言葉を継いだ。


「本来なら、あなたの下界での人生はまだ続いていたはず……ですが、あなたは“禁忌の言葉”を口にしてしまったのです」


「禁忌……まさか」


「その“まさか”です。禁忌を条件と共に唱えると、死神が魂を回収しに来る」


 空は息を呑んだ。ティオーネは小さく笑って肩をすくめる。


「過去には、プロポーズの直前に魂を回収された者もいましたからね……死神も気を遣うのです」


 深刻さと滑稽さが同居する話に、空は思わず頭を下げていた。


「……ありがとうございます」


「ルシフィスよ。あなたが天空界へ戻ったことを、私は心から喜んでおります」


「……はい」


「これからは記憶と力を取り戻すため、揚老師の下で修行に励みなさい」


「……承知しました!」


 こうして神山空は、自分が天使であるという真実と過去の過ちを知り、再び力を取り戻すため、天空界で修行の道へと歩み出すのだった。


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