第19話 トンネル掘り世界記録
南東樹海事件で魔物化している冒険者たちが、シールド領へ向かっている形跡が見られた。メイソンは早急にシールド領への捜査協力を打診すべきかと思案していた。
そんな朝、エレノアがギルマスの部屋を訪れた。
「おはようございます、ギルマス」
「おう、エレノア。昨日はご苦労だったな。行方不明者が見つかってよかった」
「はい……ですが、彼らが魔物に変化していたという事実は、やはり重いですね」
メイソンは頷いた。「ああ、しかも北に向かって進んでいた形跡がある。シールド領の方角だ」
「まさか……あそこは最前線。着くまでに討伐されてしまうかもしれません」
「それが心配なんだ。すぐに協力要請をしたいが、今のルークには少し違和感がある。まずはリアムに相談するか」
「それが良いと思います」
そんな会話の最中、ミア、空、そしてライガーが現れた。
「おはようございまーす! 」
「おう、ミア。今日は何をするんだ? 」
「今日はね〜ここからドリード王国までトンネル掘るの! 」
「……は? 」
一瞬理解が追いつかないメイソン。
「い、今なんて? 」
「トンネル掘るの!ドリード王国まで! 」
メイソンは目を見開いた。「お、おいおい。ここからドリード王国って、四千キロ以上あるぞ? 」
「大丈夫!空にぃとボクなら余裕! 」
信じがたい表情でミアを見るメイソン。
エレノアがこっそり彼の袖を引いた。
「ギルマス、ちょっと 」
ちょっと離れて、小声で話す。
「実は昨日、この基地の地下にとんでもない空間が出来たんです」
「……お前まで俺をからかうのか?ここの下は岩盤だぞ?鉄のツルハシ何本あっても足りん」
「本当なんです。実際に見てもらった方が早いです」
そのままミアの案内で、地下空間へ向かったメイソン。半信半疑で階段を下りた彼の目に飛び込んできたのは、巨大な空間だった。
縦横三百メートル、高さ五十メートルの広さ。温泉保養施設の建設予定地で、しかもそれが一瞬で作られたという。
地上へ戻ったメイソンは、まるで他人事のような口調で言った。
「……今日はトンネル掘りだったな?うん、いいんじゃないかー……」
エレノアが呆れたように叫んだ。
「ギルマス!あの空間を一瞬で作るんですよ!?常識が崩壊してますよ、もう! 」
「……はは、慣れるしかないな。エレノア、すまんがもう少し一緒に振り回されてくれ」
そして、ミアはライガーにまたがり空へ舞い上がった。
「よーし、地上と地中の測量開始〜! 」
ドリード王国までの道を、あらかじめ馬車で測量していたミアは、残る情報を補完するように精神を集中。地中にトンネルの設計図を形成していった。
「空にぃ!準備できたよ〜。地下空間の東南端から掘って!」
「了解〜!」
ミアがマーキングした位置に合わせて、空がグラビティビットを展開。今回の作業は前回の反省を生かし、空気の逆流を防ぐ工夫がされていた。
「グラビティビット、吸収開始! 」
静かに、しかし確実にトンネルが地中に形成されていく。空気はトンネルに吸い込まれることなく、順調に進行。
数分後――
「うまくいったよ!」
空の声に、地上で待っていた皆が地下へと集まった。
「すっご〜い!ボクの設計も完璧だね!」
「実際に通ってみないと分からないが、上出来だと思う」
ライガーが尋ねる。「このトンネル……本当にドリード王国まで続いているのですか?」
「うん!約四千四百キロメートル、施工の早さも長さも世界記録だね!」
その言葉に、メイソンとエレノア、ライガーは頭を抱えた。
「……ミアが言うなら、そうなんだろうな……」
「ギルマス、現実を受け止めると誓ったはずですよ? 」
「う、うむ……で、これからどうする? 」
「馬車に代わる新しい乗り物を走らせようと思ってるよ。でも、まだ設計段階なんだ。」
「なるほど、大陸は広いからな。早く移動できる手段があれば便利になる」
「うん!途中にある町や村にも出入口を作るし、ドリード王国にもトンネルの完成を知らせて整備に協力してもらうつもり」
「となれば、こちらからも調査隊を出す必要があるな……昨日助けたあいつに任せるか」
「じゃあ、それもドリード国王に伝えておくよ! 」
メイソンは深く息をつきながら考えた。
(しかし……ドリード王国までトンネルが出来たって、リアムとルークにどう説明すりゃいいんだ……)
常識を越えた計画に翻弄されながらも、新時代の幕開けを予感するメイソンだった。