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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
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第18話 温泉保養地空間確保

 六日目の朝。南東樹海基地の東側にある一角で、ミアが空に声をかけた。


「空にぃ〜、この辺りから地下への出入口を作りたいんだけど〜」


 ミアが指差した場所を見て、空はすぐに頷いた。


「分かった! ここからだね」


 次の瞬間、空のスキル《グラビティビット》が発動し、地面に直径三メートル・深さ八十メートルもの巨大な縦穴が音もなく出現した。


「良いよ〜良いよ〜! 次はそのまま西側に向かって、大きな空間の型を作るから、ちょっと待ってて〜」


 ミアは地上からその穴を覗き込みながら、地下の空間に《地下空間測量》のスキルを用いて直方体の形状を作り始めた。


「了解」

 空は即座に反応し、作業を続ける。


 空とミアは、温泉保養施設建設のための地下空間の確保を着々と進めていた。それを少し離れた場所から静かに眺めるエレノアは、複雑な想いを抱えていた。


(ギルマス……あなたが新時代に置いていかれそうなら、私なんて到底ついていける自信がありませんよ。そして隣にいらっしゃるライガーさん……この方、北西部の獣国ライネルの王、マンティス五世では?)


 エレノアがそっと隣にいたライガーの顔を見上げると、彼も気づいたらしく、軽く会釈した。


「すまないね、お嬢さん。怖がらせてしまったかな?」


「い、いえ……ただ、マンティコアと言えば、北西の獣国にいたような……たしか王様だとか……」


「ははっ、違いますよ。私は王のような立派な者ではありません。ただの獣国の一住人です」


「そうですか……」

(でも、やはり王族のような威厳というか、気品のようなものを感じる。でも、闇国側の情報は限られているし……)


「どうか気兼ねなくお話ください。お嬢さん」


「は、はい……」


 そんなやり取りの中、ミアと空が作業の最終段階に入った。


「エレノアさん、ライガー、少し離れて〜!」


「分かりました!」

 二人は一斉にその場を離れる。


「空にぃ、お願いね〜!」


「了解!」


 空はいつの間にか、自分が作った縦穴の中に入り込んでいた。そこで《グラビティビット》を再び発動し、ミアが型を作った地下空間の土や岩盤を一気に吸引し始めた。


 轟音とともに地上の空気が地下へと怒涛のごとく流れ込む。風の奔流が木々をざわめかせ、地下空間は一瞬真空に近い状態になった。


「空にぃ、大丈夫〜?」


 ミアが叫ぶと、穴の奥から空の声が返ってくる。


「ああ、大丈夫だ! でも空気の流入を忘れてたな、ははっ」


「ボクもだよ〜、失念してたね〜、あはは」


 その様子を見ていたエレノアが、恐る恐る口を開いた。


「あの……ミア、今のは一体……?」


「空にぃが作った巨大な地下空間に、一気に空気が流れ込んだだけだよ〜。地下空間が真空に近い状態だったからね。次は気をつけなくちゃ」


「そ、そうなんですね……(これは現実……これは現実……)」


 エレノアは半ば放心状態になりながら、自らの常識を上書きしようと懸命だった。


「よし! これで地下温泉保養地の建設用地は確保できたね。本格的な建設には人員が必要だから、今日は階段とエレベーターを作って、しばらくは基地本部として使ってもらおう!」


「分かった。……にしても、便利なスキルだね」


「そうでもないよ〜。本当に役に立ってるのは、空にぃのスキルだからね」


 ミアが地下空間の形を整え、空がその中の不要な土砂を吸収して建築空間へと成型していく。その見事な連携だった。


「もうそろそろお昼だね」


「ご飯食べに行こ〜!」


「おー!」


 空、ミア、エレノア、ライガーは連れ立って食堂へ向かった。


 昼食を終えた一行は、再び地下へと戻り、トーリンたちを案内しながら温泉保養施設の建設計画について意見を交わしていた。日が傾き始める頃、探索に出ていたメイソンたちが基地に帰還した。


「皆、ご苦労だった。今日の探索は終了だ。各自、自由にしていいぞ!」


 兵士たちに声をかけながら、メイソンは保護した魔物化した人々を風呂場へと案内した。特殊な温泉の力で、彼らの魔物化は徐々に解かれていく。


「うあぁ……た、助かった……」


「お前ら、無事でなによりだ」


「ギルマス〜!」


 冒険者たちはメイソンに抱きつかんばかりに喜びを示した。なお、彼らは服を着ており、裸ではないので安心である。


 この日、救出された者たちは、冒険者十五人、兵士五人の計二十人。皆、それぞれの宿舎テントへと案内されていった。


「良かったな、お前ら。本当に無事で何よりだ。今日はゆっくり休め」


「はいっ!」


 メイソンは一人、空を仰ぎ見ながら考え込んでいた。


(……あと二百人くらいか。今日の探索では、どうやら北へ向かった形跡があったな。南東樹海の北側といえば、北東樹海のシールド領……。たしか今は帝国皇太子が魔王軍襲来に備えて指揮を取っているとか。近いうちに事情を話して、捜査協力をお願いしなければな)


 夕日が赤く染める空の下、メイソンは次なる一手を静かに胸に刻んでいた。


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