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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
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第14話 亜空間へご招待

 神殿の静けさを破るように、空が亜空間から戻ってきた。ミアたちのもとへと駆け寄るその顔には、どこか違和感がある。


「しゅまない、待たせてしゅまって。話は通してきた。さあ、こっちへ来てくれ」


空の案内にミアが頷くが、ふとその顔を見つめて目を細めた。


「了解だよ。でもさ、空にぃ……その顎、いつからしゃくれてた?」


「ああ……ちょっとしたトラブルがあって。いいものが……いや、なんでもない」


 その顎は、どうやら美加の渾身のアッパーカットによって形成されたもののようだった。


 ミアは小首をかしげたが、すぐに気を取り直す。「ま、いっか。お邪魔しまーす」


 空は空中に手をかざすと、白くもやのかかったゲートを出現させた。それは横九十センチ、縦百八十センチほどの楕円形の門だった。ミアたちがその白いもやをくぐると、一瞬で景色が変わった。


 そこはまるで自然のまま手つかずの地。どこか懐かしさを感じさせる空間に、ミアは目を輝かせた。


「わあ、すごい……。見たところ、自然がそのまま残ってるみたいだね」


「どうやら、この空間は惑星ガイアの“日本”をイメージして創られているらしい。少なくとも私のイメージをもとに構成される空間のようなんだ」


 空の説明に、ミアがニヤリとする。


「つまり、空にぃの好き勝手に作れるってこと?」


「まあ、そんな感じだね。建物や人工物を作るには集中してイメージしないといけないけどな。“ガッ!”って感じで」


「ガッ!って何……。でも、すごいよ!」


 空は真剣な面持ちで言葉を続けた。


「この場所を生活や生産の拠点にして、イオへ食糧や物資を供給できるようになれば、中立都市の開発が進めやすくなると思うんだ」


「うん、いい考えだと思う」


 空はミアに二人の仲間を紹介した。


「こちらが、美加とガブリールだ」


「初めまして。ミカイルこと美加と申します」


「私はそのまま、ガブリールと申します」


「ボクはミア・ムーア、ドリード王国から来たよ。スライムだけど、スライムじゃないよ」


 和やかな挨拶が交わされる中、美加はそっとミアを見つめ、優しく声をかけた。


「お話は伺っております。大変でしたね」


「美加姉ぇ……!」


 ミアは感極まり、美加の足元にすり寄った。そんな姿に、美加はそっと微笑む。


「ここにいれば、もう安心ですよ」


 そこへドワーフの長であるトーリンも名乗り出た。


「初めまして、天使様。ドリード王国で開発部研究室長を務めております、トーリンと申します」


「皆さんも、魔物化の影響を受けたのですね」


「はい。我らドワーフは、ティオーネ様に忠誠を誓っております。何かございましたら、なんなりとお申し付けください」


「よろしくお願いいたします」


 紹介がひととおり終わったところで、ミアがぽつりと尋ねた。


「空にぃ~、お水ないかな?」


「そうだな……あっちの森の奥に泉がある。行ってみようか」


 その言葉に、ガブリールの表情が一瞬曇った。


「……思い出の泉……」


「何か言いました?」と美加が尋ねたが、ガブリールは首を振った。


「い、いえ、なんでもありません。私は部下を呼んできます」


 そう言い残し、ガブリールはその場を後にした。


 空たちは泉へと向かった。森を抜けた先にあったのは、静かに湧き出す美しい泉だった。


 先に飛び込んだのは、スライムのニーイだった。


「気持ちいいだすよ~、ミアお嬢~!」


 だがその瞬間、ニーイの体が光り始めた。次の瞬間には、元の人型の姿に戻っていた。着ていた衣服まで元通りだ。


「えっ? これは一体……?」


 ミアもトーリンも驚きを隠せない。


「ほかの人は、ちょっと待って! 飛び込んだり水を飲んだりしないで! 原因を探りたいから」


 実験は続けられた。水に浸かるだけでは変化は起きなかった。飲むだけでも同様だった。だが――水に浸かり、さらに水を飲むことで、他のドワーフたちも元の姿に戻っていった。


 皆が抱き合い、喜びの声を上げる中、ミアも決意する。


「ボクもやる!」


 泉に身を浸し、水を口に含んだその瞬間、ミアの体がまばゆい光を放ち、人間の姿へと戻った。九歳ほどの少女、白衣をまとったその姿に、空は微笑む。


「良かったね、ミア」


 そして、ミアは問いを発した。


「空にぃ……どうしてこの泉は、呪いを解けたんだろう?」


 空の脳裏に浮かぶのは、思いがけない記憶。最初にこの空間に入ったのは――ガブリール。そして、美加。確かに泉に足を浸していた。


「……まさか、だけど、思い当たる節が一つだけある」


 空はミアを木陰へ連れて行き、耳元でそっと打ち明けた。


 それを聞いたミアは、吹き出した。


「ふふっ、空にぃったら、それで顎がしゃくれてたんだね!」


「事故だったんだって! 計画的じゃない!」


「でもつまり、“熾天使様の出し汁”が呪いを解いたってこと?」


「その言い方はやめて……」


 秘密は共有された。そして計画も動き出す。


 ミアは提案する。


「南東樹海の西側に温泉があるんだ。そこに中立都市を築いて、温泉施設を作ろう」


「良い案だ!」


「そこに熾天使様専用の湯を用意して、使用済みの湯は“薬膳湯”として流すの。誰も気づかないようにね」


「……つまり、秘密裏に“出し汁”を確保するってことだな」


 空たちはその場で泉の水をグラビティビットで吸い取り、次なる目的地――南東樹海基地へ向かう準備を始めた。


 その後、空とミアは戻り、すべてが戻ったことを美加たちに報告する。魔物化が解けた理由を聞かれた空はしどろもどろになるが、ミアとの連携でなんとか誤魔化し通した。


 ガブリールも戻り、祝福の言葉が飛び交う。さらには聖獣ライガーまで白く輝く姿へと進化していた。


 空は最後に中立都市の構想を美加とガブリールに語る。彼女たちもその案に賛同し、新たな一歩を踏み出す準備が整った。


 すべての準備が整い、空とミア、トーリン、ドーリは新たな希望を胸に、南東樹海基地へと旅立った。


 その空間の片隅では、また一つ、静かに未来が芽吹こうとしていた。


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