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天空門のルシフィス  作者: かみちん
惑星イオ 光国編
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第13話 ミア・ムーア

 不死鳥が眠っていた神殿の部屋から出ようしたその時、空とライガーの耳に、どこからともなく軽やかな声が届いた。


「やぁやぁ、待っていたよ~」


「……誰だ?」

 空が眉をひそめた瞬間、ライガーが鋭く周囲を警戒し、臨戦態勢を取る。


 だが、周囲には誰の姿もなかった。


「右下の足元を見ておくれよ~」


 その声に導かれ視線を落とした空は、足元にいる小さなぷるぷるした存在を見つけた。

(……このスライム、洞窟の出入口にいたやつだ)


 スライムはにっこりと笑って自己紹介を始めた。

「先ほどは助けてくれてありがとう~。ボクはミア・ムーア!ドリード王国の研究員をしているよ」


「もしかして君も、黒い霧に巻き込まれたのかい?」

 空の問いに、スライム――ミアは安心したように頷いた。


「良かった、この状態のこと知っているんだね」


「他にも動物や魔物になった人たちを保護しているよ」


「なるほど。他にも被害者がいるのか……ところで、一部始終を見てたけど、そのマンティコアは大丈夫なのかな?」


 空が頷くと、ライガーが一歩前に出て自己紹介をした。


「我はライガー。空殿の従者となった」


「マンティコアを従えるなんて、すごいね~! でも、これで安心したよ。……トーリン!」


 ミアの呼びかけに応じて、さらに四匹のスライムが現れた。


「はじめまして、俺はトーリン。ドワーフ国の研究室長だ。こちらは部下のドーリ、オーリ、ニーイ」


「よろしく!」


 同じくスライムとなった彼らは見分けがつかなかったが、空は気にせず名乗り返した。


「私は空。こっちはライガー」


「よろしくお願い申す」


「空って言うんだね。いや~、それにしても助かったよ。黒い霧が出たと思ったらスライムになって、近くにあった洞窟へ逃げ込んだのさ。そしたらライガーさんが入口にいて……」


「怖い思いをさせてすまなかった」


「ううん! おかげで魔物が来たら即座に倒してくれて助かったよ。ありがとう、ライガー」


 ライガーが静かに頷いた時、空がふと問いかけた。


「ところで、君たちはどうしてこんな場所に?」


 ミアは空を見上げて説明を始めた。


 ドリード王国では、主に武具や鉱石、道具の生産に特化しており、食糧は他国からの輸入に頼っていた。しかし、ミラー領領主が突然、食糧の輸出を止めたことで王国は大混乱に陥った。そこで王は、食糧が豊富だが危険な魔物の住む樹海まで地下トンネルを掘る計画を立てたのだ。


 ミアたちはその調査団として、地下トンネルの測量と資源調査を行っていたのだと言う。


「調査中に、トーカチ山北側へ足を延ばした時に、東から黒い霧が現れて……それで、今に至るって訳」


「大変だったね」

 空の声に、ミアは微笑み?続けた。


「でも、トーリンたちが近くにいてくれたから助かったんだよ~」


 その時、ミアがふと真剣な表情になった。


「ねえ、空さん。少し、ふたりでお話できないかな?」


「……ああ、いいよ。ライガー、ドワーフの皆さんと一緒に外で待っていてくれる?」


「承知しました、空殿」


 一行が扉の外へ向かうと、神殿は静けさを取り戻した。


「それで……話というのは?」


 ミアは少しだけ間を置き、そっと口を開いた。


「空さん、天使様でしょ?」


「……なぜそう思うんだい?」


「さっきの美加さんには天使の輪と翼が見えたし、空さんにも小さな翼が見える。ボク、惑星ガイアから来たんだ」


 空の表情が少し緩んだ。


「なるほど。君がガイアから来た転生者か」


 ミアは頷いた。


「女神ティオーネ様から、中立都市を作ってくださいって言われて」


「私も同じ理由で来たんだ。……少し、試させてくれないか?」


「試す?」


「君が本当にガイアの転生者なのか、クイズで確認したい」


「いいよ~。ボク、向こうで雑学博士号を持ってたんだ」


 空が出す問題を、ミアは次々と正解していく。


「……いや~参った。完璧すぎる」


「ふふん!」


「疑って悪かった。私は見習い天使、ルシフィス。下界では“空”と呼んでくれ」


 ミアは内心驚いた。

(ルシフィスって、何百年前の最高位天使だったんじゃ……? しかも、見習いって何があったんだろう)


「改めてよろしくね。ボクは空にぃって呼ぶけど、いいかな?」


「いいよ。よろしく、ミア」


 空はこの賢くユーモアも忘れないミアを見て、中立都市建設に不可欠な存在だと確信した。そして彼女を守るため、亜空間で保護することを決意する。


 一方、先に亜空間に入った美加とガブリールは、不死鳥の手当てを終えていた。


「これで不死鳥は大丈夫です」

 ガブリールが神聖結界を張り、不死鳥を保護する。


「良かったです」

 美加は胸を撫で下ろす。


「……ですが、美加お姉様。嬉しそうですね?」


「え? そ、そう? 不死鳥が無事で良かっただけです!」


「いえ、それだけではないような……ルシフィス様絡みでは?」


「べ、別にいいでしょう!? 冒険してるのよ、ルシフィス様と! 悪魔に捕まって、彼に助けられる妄想くらい!」


(また始まってしまった……)

 ガブリールは内心でため息をつき、話題を逸らした。


「そういえば、あちらの森の奥に綺麗な泉がありました。水浴びなどいかがです?」


「そうね。ちょっと行ってくるわ」


 その頃、空も亜空間に到着していた。


「ガブリール、不死鳥の具合は?」


「はい、手当てと結界で安静にしております」


「ありがとう。ところで、美加は?」


「……食べ物の採取とかで、森の奥へ行かれました」

(ふふふ)


「そうか。呼んでくるよ」


 空は森へ向かった。


 数分後――


「きゃーっ!」


「うわ、待って! 誤解だ!」


「変態がぁ~!」


「シャイニング・アッパー!」


「ぐはっ!」


 森の奥で光の柱が立ち、空が宙を舞った。

 そしてガブリールの結界に激突し、頭から落ちる。


「ぐべっ!」


 怒れる美加が走ってくる。


「ド変態はどこですの!?」


「あ、あそこに……」


「ああっ、ルシフィス様!?」


 美加が駆け寄り抱きつく。


「な……ナイスアッパー……ガクッ」


 気を失う空。


 その後、空が意識を取り戻すと、美加が口を尖らせて言った。


「水浴びを覗くなんて、天使としてあるまじき行為です!」


「いや、誤解だよ……“食べ物を探しに森の奥へ行った”って聞いて……」


(ドキドキ)


「……はっ! ガブリールのせいね?」


「ひっ、はいっ!」


 空は慌てて話を切り替えた。


「そうそう、ガイアからの転生者を見つけたんだ」


 空は一部始終を説明し、亜空間でミアたちを保護したいと伝えた。


「異存はありません」

 美加が微笑み、


「私も賛成です」

 ガブリールが頷いた。


「ありがとう。じゃあ迎えに行ってくるよ。ライガーも一緒に連れてこよう」


 空は再び不死鳥神殿へと向かった。


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