第101話 光国編・終幕 戦後処理
ツベツ平原での戦いは終わった。
「わぁ〜。一番星が輝いて綺麗だと思ったら、今度は黒雲が晴れて朝日が射し込んで来ました!綺麗ですよね〜ははっ」
ラキは見通しが良くなった外城壁内から、空が放ったモーニングスターの青き輝きを見て、朝日が射し込む眩い光を見て、そして後ろ振り返り現実を見た。
セシリアは大の字に倒れ伸びていて、レーカは軽傷で今は片付けを始めて、メイド隊の皆様も周囲の救助と片付けを始めた。
外城壁の外のツベツ平原には大量のイボブーの肉塊と、大勢の第一・二師団兵士達がうつ伏せで倒れており、各司令部及びエレバン帝国外城壁の一部は全壊していた。
ちなみにラキはコッコーちゃん着ぐるみで無傷だった。
「はぁ〜これからどーしよう〜」
そして軽傷で済んだ第三・四師団兵士達が第一・二師団兵士の救護とイボブーの後片付けを始め、また他の魔物への警戒を始めつつあった。
ラキはセシリアに駆け寄り、揺さぶるように呼びかける。
「セシリア様、起きてください〜」
やがて、セシリアが薄く目を開けた。
「う、う〜ん……」
「セシリア様!」
「ああ……ラキちゃん。無事だったんだね」
「お陰様で。でも、おはようなんて言ってる場合じゃないですよ」
「ふふ……まぁ、少し頭をスッキリさせたいな。レーカさん、コーヒーお願い」
「かしこまりました」とレーカが応じた。
ラキはジト目を向けるが、セシリアは笑って受け流した。
「で、現在の状況は?」
レーカが淡々と報告する。「魔虫は全滅、大量のイボブーは肉塊に変わり、第一・第二師団は重軽傷者多数。ただし、死者は確認されていません。第三・第四師団にも負傷者はいますが、被害は軽微。各司令部と作戦本部全壊。エレバン帝国北西外城壁も崩落しました。
オルクス様……激おこです。なお、首謀者と思しき存在は既に討伐され、脅威は去った模様です」
「あーなるほど、兵士たち倒れているね〜。北西外城壁が全壊とは、どおりで見通しが良いわけだ。ハッハッハ」とセシリアは大きく笑った。
ラキは改めて訊ねる。「あの新兵器……一体、なんだったんですか?」
「異世界の技術さ」とセシリアが答える。
「異世界?」
「この星とは別の世界の技術を、こちらの素材で再現したもの。あちらでは花火と呼ばれていて、空に打ち上げて楽しむ観賞用のものなんだよ」
ラキは眉をひそめた。「こんな破壊力のあるものを、観て楽しむんですか……?」
セシリアは笑った。「本来、真上に打ち上げて、空に咲く大輪の花を眺めて楽しむ文化らしいよ。今度、ちゃんと見せてあげる。さて、戦後処理に移ろうか」
そう言って、セシリアとラキは片付けを始めた。
一方、ツベツ平原左翼側では、ザンザとジンが立ち上がり、周囲を見渡していた。
「いやはや、派手にやってくれたな……」ザンザが呟く。
イボブーの肉塊が山のように積み上がり、第二師団の兵士たちがうつ伏せで倒れていた。
「散々、魔物に踏まれたが……あの最後の衝撃波、イボブーが上でクッションになったおかげで、中傷で済んだのかもしれんな」とジン。
「それを見越して、うつ伏せになれって言ったのか……まさかな」ザンザは肩を竦めた。
「何にせよ、動ける者から周囲の兵士を助け起こそう」
「分かったぜ」
そして、中央で最も被害を受けたファランクス隊では、オルクスが軽傷ながら激怒していた。
「セシリアの奴……あとでたっぷり説教だ!無事な者はまず負傷者を運べ!イボブーの処理は第三師団に任せろ!」
「了解しました!」と軽傷だったシールド兵たちが盾を置いて駆け寄り応じる。
第四師団のオリバルもまた軽傷で済み、イザーナと合流していた。
「姫様、ご無事で何よりです」
「ありがとう、でも……この状況は?」
オリバルは、セシリアが開発した新兵器について簡潔に説明しつつ、詳細は後ほど皇帝陛下へ直接報告すると告げた。
「分かったわ。では皆さん、負傷者の救護と後片付けをお願い。ここからはエレバン帝国復旧の仕事です」
そう言って、イザーナは指示を飛ばす。
オレク、エレノア、エリアたちも復旧作業に加わり、雅閻魔たちは脅威がない事を確認し、一足先に天空門へと帰還していった。
そして、空と美加も新たな悪魔の気配がないことを確かめると、エバと共にハリス皇帝のもとへと歩みを進めた。
──こうして、一部激戦の舞台となったツベツ平原での戦いは幕を下ろした。
しかし、世界は決して安らぎを得たわけではない。
闇はすでに胎動し、その深奥にて蠢いていた。
次なる舞台は、光国の対極──闇国へと移ろうとしていた。
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