2025.6.21 お前のオールを任せるな
★前回までのあらすじ
AIから提示された五つの課題。
「あ……、こんな真面目なやつ無理だ」と、自力での突破は早々に諦めた吉田晶。
彼は、脳内に住まう【吉田の住人】の力を借り、何とかこのデスロードを完走したのであった――
【田晶=サン(※1)。ありがとうございました】
ぴろぴろりんという電子音が、脳内に響き渡る。
【これで、AI=サンの課題はコンプリートです。オめデトゴザイまース】
「よいのか? これでよいのじゃな? 助かった……」
五つ目の課題を終えた田晶は、安堵のあまり膝から崩れ落ちる。
そこに、笑い声を響かせながら入って来る者これあり。
「わあっはっはっ。いかにもタヌキらしい浅はかなエッセイだったぞ!」
「おぬしは……雄山!(※2)」
「異文化の衝突ということであれば、『平成狸合戦●んぽこ』でも見ていたほうがまだマシだったわ!」
「そこを伏字にするのはやめるのじゃ! なんだか腹がたつのじゃ!」
「はいはい、二人ともそれくらいにしておいてください」
新たに声のした方を見やれば、そこにいたのは――
「宿主ッ! いったいどこに隠れておったのじゃ! どいつもこいつも、お題がなくなった途端にぞろぞろと湧きだしおって……恥ずかしくはないのか!」
のじゃロリばばあの魂のシャウトに、雄山が反応する。
「このおたわけが! わしはあくまでこの吉田晶の脳内におる雄山……高尚なエッセイなど書けるわけがなかろう!」
「……あ……それはその……ごめんなのじゃ」
「はいはい、雄山も●ンポコ娘も冷静に、冷静に……」
「だまれ宿主! そもそも、おぬしがエッセイをしっかり自分で書いておれば、こんなことにはならなかったのじゃ!」
§ § §
どうも、みなさま。湘南のビョルン・アンドレセンこと吉田晶です。
このたびは、五回に渡って「AIの出したお題」にそってエッセイを書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
さて、「いいことおもいついた!」と人が言うとき、それは破滅への一歩を踏み出した瞬間であります。
最初はね、私にだってこんな思惑があったのですよ。
「いつもふざけているやつが、たまに真面目なことを書いたら、読者はギャップ萌えできゅんきゅんきちゃうんじゃないか?」
もう、勝利を確信して最初のお題にチャレンジしたのです。
ところが、書きあがったものが、その、あまりに臭くて苦くて……。
真面目な話題を真正面から論じて、さらには誰かに楽しんでもらう。そのためには、やはりそれなりの実力が必要みたいです。
で、急遽洗濯機だのオタクだの電波だの魔道士だのを召喚して方向修正を図ったわけなのですが、なにせお題が自分の土俵ではない。あまり尖ったことを書くわけにもいかず、軟着陸させるので精一杯。
結局、ラクしようと思ってAIに頼ったら、かえって苦労することになった――
まさしく「お前のオールを任せるな」というやつだったのであります。
ただまあ、新鮮な体験ではありました。
これまでもこれからも、「SDGs」についてあんなに真剣に悩むことなどないでしょうからね。
そこは、素直に勉強になったと思うことにします。
§ § §
「ふふん。なるほど、最後に正論っぽい発言でまとめることによって反論をシャットアウトする。それが今回の収穫というわけじゃな?」
「えへへ、そんなにほめないでくださいよぅ……」
「ほめてはおらんのじゃ! それに、これだけは言っておくのじゃ! むりやり人を引っ張って来て何かをやらせるというその態度が気に食わんのじゃ!」
「……へ? いったい何のことですか?」
【――狸説明中――】
「ぷっ……腹直筋から来たって……なにそのアバンギャルドな存在!? そもそも、そんなところに妖精が宿るわけないじゃないですか。だって、見てごらんなさいよ私の腹直筋、こんなゆるゆるなんですよ。ほれほれ」
「わあっはっは! これは愉快。狐にでも化かされたのではないか」
「おぬしら、人をからかうのもたいがいにせい! だって、ここにこうして……」
田晶媼が振り返ると、そこにはもう筋肉妖精はいなかった。
そう言えば、すでに彼の顔も思い出せない。
一迅の風が吹く。
それに乗って、何者かの哄笑が聞こえた気がした。
「あなや! こ、これはいったいどうしたことじゃ? いやじゃ……こんなすっきりしない終わり方はいやなのじゃ~っ!!」
どんどはれ。
※1……田晶
吉田晶の脳内に潜む人格の一つ。齢を経た雌狸。あざとい。
本名は吉 田晶。そういえば、そんな設定もあったね。
※2……雄山
脳内に巣食う人格の一人で、何かにイチャモンをつけるときにだけ心理の表層に現れる。傲岸不遜にして傍若無人。のじゃロリばばあは結構好き。




