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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.6.19 教育の可能性

 ひゅるりらひゅるりら……ばひょぅぅん(オーラロードを通りぬけるっぽい音)




 ――これはまた、面妖な仮想世界ステージに飛ばされたのう。

 ん? おぬしが今回の出題者か。


 なんと! その薄衣は、己が筋肉を誇示するためのものなのか!?

 ずいぶんと……まあ……ロックンロールな風体じゃのう。


 だが、逆に潔いとも言える。

 遠い未来には受け入れられるかもしれんぞ、そのセンス。


【ありがとう。私のことは、筋肉妖精吉田とお呼びください】


 ぬぐぉ! ……脳内に直接思考が……その魔道は一体!?


【魔道ではありません。腹直筋です。腹直筋が語りかけているのです】


 ま、まあ、仮想世界は何でもありじゃからなあ。


 我が名はアルバート、“追求者”として“本鍵の試練”に名乗りを上げたものなり(※)。さあ、はよう出題するがよい。


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 4.教育の可能性:

 教育が個人と社会に与える可能性について、あなたの考えを述べてください。

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 これまでとはずいぶん趣が違うのう。魔道とは何の関係もないではないか。

 ……いやまて、これは難問かもしれぬ。

 出題者の思想や背景を読み取って解答せねばならぬということよな?


【好きに答えてくださって構いませんよ】


 へ? ボーナス問題というやつか?

 まあいい、お宝のためならなんだって答えてやるわい。


 まずは、そうさな……

 (わし)ら魔道士にとって、知識は力であり、通貨である。じゃから、知識を効率よく授かることができる教育というものは、非常に重要であると言える。


 一方で教育は、個人個人の格差を深めるものでもある。誰もが質の良い教育を受けられるわけではないからじゃ。良い教育を受けて力を得たものは、その力で更なる教育を受けることができる。

 しかし、力を持たぬものは教育を受けることができず、いつまでも力無きまま。

 貴族を貴族たらしめているのは、何も領地や血統だけではないのだぞ。


 古来より未来永劫にいたるまで、これは変わらないかもしれんのう。


 さて、社会を個人の集団と見た時、教育はその集団の実力を底上げするわけじゃから、まず重要じゃろうな。

 別の社会と競争をしている場合などは、ますます重要となる。すると、集団の中で力を持つものが、力を持たぬものに教育を施す必要が出てくる。

 ここいらへんの逆転現象は、ちょっとおもしろいと思わんか?


 また、社会という仕組みを維持しているものもまた、教育であるといえる。


「決まりを守りましょう」


 このことを暴力だけに頼るのは、とにかく効率が悪い。道徳やらなにやらを下敷きにしたほうが、よっぽど労力がかからんからの。


 ――そして、誰かが誰かを都合よく動かすために、教育を利用することもある。

 大公ブーザックの【魔道兵団】の話、聞いたことはないか?

 国中から攫ってきた魔力の高い少年少女を薬物で洗脳して、殺傷力の高い魔道だけを仕込み、さんざん汚れ仕事をさせたという、救いようのない話じゃ。

 あれだって、大公側からしてみれば立派な教育というやつよ。


 儂の部下にも【魔道兵団】の生き残りが何人かいるが、あいつらを見ていると、どうにも素直に「教育ばんざい」とは言いづらくてな。


 ……結論。教育は、個人や社会を効率よく成長させるために便利なものじゃ。それは間違いない。

 しかし、力ある者が力なき者を虐げるための手段として使われることもある。

 手段なんてものはなんでもそうじゃが、諸刃の剣じゃな。

 

 ――とりあえず、こんなところでどうじゃ?


【どうもありがとうございました、お帰りはあちらです】


 んん? これで良いのか?

 魔道をまったく使わんかったが、この試験になんの意味があったのだ?


 なんだか、怪しいのう。儂、騙されてはおらんかのう……。


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※「魔道探偵ナツメ事務所」収録「キタブ=アッカの箱」参照 

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