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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.6.12 バンコクソープオペラ

 (五●悟、強すぎねぇか!? 万が一にでも戦うことになったら、私の能力ではどうにもならんぞ……)


 BOOKO●Fで、『呪術●戦』を立ち読みしてきた帰り道。

 そんなことを考えながらフラフラと道を歩いていると――


 しゅぼん!


 突然、ビールの栓を抜くような音がしたのです。


 ぶしゅわああああああ!


 見れば、おじさんの乗ったママチャリの後輪から、空気がものすごい勢いで漏れ出している。


(ああ、お気の毒……)


 そう思った次の瞬間――

 空気と共に、ミントブルーの()()が噴出したのであります。それも大量に。

 明らかに普段使いではない不気味な色彩が、路面を、道路標識を、そして、近くに止まっている車を次々に穢していきます。


 自慢じゃありませんが、「覚醒者(※)」たる自分はすぐに理解しました。


(あの自転車、憑かれていたかッ!!)


 その正体については見当もつきません。

 しかし、この後起きるであろうことは容易に想像がつきます。


 ――惨劇


 こんな街中で正体を晒してしまった怪異は、すぐに暴れ出し、無辜の犠牲者の血でこの地を朱殷シュアンに染め上げることでしょう。


 ……けれど悲しいことに、今ここでできることは、何もありません。

 我が能力「パクチーは石鹸の匂い(バンコクソープオペラ)」は、相手が「パクチー」であったときのみ発動するものであって、それ以外はなにひとつ役に立たないのです。


 私は、怪異に存在を悟られぬよう、そっとその場を後にしました。

 悔しさに震える拳を隠しながら……。



                 § § §



 それから5分くらいして、ようやく気が付きました。

 あれ、たぶんパンク防止剤ですね。


 タイヤのバルブから注入しておくと、チューブに小さな傷がついた時、外気と反応して急激に固まり、パンクを防いでくれるという優れものです。

 今回のケースだと、タイヤについた傷がよっぽど大きかったのでしょう。


 自分が乗っている自転車には使えないので、存在自体すっかり忘れていました。

 むしろ、もしあれがパンク防止剤じゃなかったら、マジでホラーですよカンベンしてください。(震え声)



 それはさておき、あの汚れはいったいどう始末するんでしょう……

 けっきょく自転車に乗っていたおじさんが掃除したのかな? 道行く人にもかかっちゃってたみたいだけど、クリーニング代とか出さなきゃいけないのだろうか?

 むむむ……想像するだにおそろしい。


 パンク防止剤を使っている方は、ちょっとだけご注意を。


 どんどはれ。

※覚醒者……2025.6.8の記事「OR6A2」参照。

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