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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.6.8 OR6A2

  けっこう昔、台湾に旅行に行ったことがありました。


 そこで麺料理が出てきたんですよ。すると、同行したメンバーの多くが「これはちょっと……」って顔をしかめるではありませんか。


 曰く「カメムシの臭いがする」と。


 もうお分かりの方もいらっしゃいますでしょう。

 そう、原因はパクチーです。台湾では、香菜シャンツァイなどと呼んでいました。別名はコリアンダー、ハーブの一種ですね。


 現在、日本ではかなりメジャー食材になりましたが、当時は「そんなもの食べたことがない」という人がほとんどだったんです。


 ほ……本当ですよ! 嘘じゃないですから!


 いやあ、とんだオオカミ少年じゃないですか吉田サン。

 この話を聞いて、うんうんと頷く方もいれば、ピンとこない方もいるでしょう。

 いいんです。

 どちらさんも、寄ってらっしゃいこのエッセイに。

 両手を広げて、待ってます。


 ――さて、くだらぬアングラ芝居は置いておいて、


 ところがワタクシ、意外にも香菜がまったく気にならない。

 普段、けっこうな偏食家である私が、ソイツをひょいひょいぱくぱく食べているのを見て、周りの人たちが不審がります。


「吉田さんは、大丈夫なの?」

「え? ぜんぜん大丈夫ですよ。石鹸みたいな香りがするけど、そういうハーブなんでしょ? だったら問題ないのでは?」

「いやいや、ぜんぜん石鹸の香りではないって! カメムシだって!」


 自分としては「香りは石鹸、味は芹。それだけを口いっぱいに頬張る気はしないけれど、薬味としては問題ない」そんな程度のものだったのですけれど……。

 台湾では、この香菜が料理に多用されます。よって、周囲との感覚のズレは、旅行の間中続きましたとさ。


 ――さて、そうしたら最近、こんな記事を見つけました。


「パクチーが苦手な人は遺伝子変異を起こしていた!」

(https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/134517)


 内容を要約しますと――

・パクチー嫌いの人の多くが嗅覚受容体のひとつである「OR6A2遺伝子」に変異を起こしている。

・OR6A2遺伝子が変異している場合、パクチーに含まれる「アルデヒド」という匂い成分に敏感に反応してしまう。

・パクチーと石鹸 (ついでにカメムシ)には同じ「アルデヒド」が含まれる。そのため、パクチー嫌いの人は、「パクチーは食べ物じゃない」と認識してしまう。


 なるほど……?

 いやいや、これってつまり――


  ・パクチーは、石鹸と同じにおいがする

  ・石鹸は、食べ物ではない

  ・つまりパクチーも食べ物ではない


 ってことですよね? しかし吉田の場合――


  ・パクチーは、石鹸と同じにおいがする

  ・パクチーは、別に嫌いではない(食べ物と認識している)

  ・つまり吉田は石鹸を食べ物と認識している


 となってしまいませんか?

 いくら偏食家だからって、石鹸は食べませんよ!?


 ま……まあ、重要なのは「私の遺伝子は変異している」ってことですからね。

 けっこうヘヴィな事実ですよ、こいつは……


(………)


(……)


(!)


 いやいやいや! 遺伝子変異者ミュータントとかクッソかっこいいじゃないですか!?

 アメコミでよく出てくるアレですよ!

 そのうち、ウルヴァリンと共闘とかしちゃうんじゃねえの!?

 いやっほう! ついにキタキタキタキターッ! 

 


             【吉田興奮中……】



 ただ、冷静になって考えると、覚醒した能力が「パクチーから石鹸の香りがする」だけってのは、ちょっと弱くないでしょうか?

 さんざん引き直した特殊能力ガチャ(※)の結果がこれとか、ちょっと割りに合わないんじゃないかなあ?


 うーん……


 まあ、いいか。

 千里の道も一歩からと申しますからね。

 この能力がいつしか世界を救うと信じて、今日も生きてゆくといたしましょう。


 どんどはれ。


※特殊能力ガチャ……「2025.5.25~26 それは呪詛か祝福か」参照

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