2025.6.6 ラーメン語り(後編)
――さて!
――さてさて!
丼を見やれば、具の姿は跡形もなく、残るはスープに横たわる太麺の大平原。
「思えば遠くに来たもんだ~♪」そんなフレーズが、頭をよぎります。
しかし、感傷に浸っている暇はありません。
胡椒をばばばっと振りかけまして、ラー油をちろちろと垂らしまして……
いざ、いくぞッ!!
ずずずずず……
ただひたすら、無念無想で、麺を啜ります。
ずずずずず……
なんと申しますか――
やはり、炭水化物というのは本能で味わうものなのですよ。
頭でどうこう考えるようなものじゃない。
私がどれだけの文言を連ねようと、あの多幸感を表現することはとてもできないでしょう。
それでも強いて言い表すとしたら、「うまし」――この一言に尽きます。
ずずずずず……ずっ。
――おそらく、5分と経たないうちに、麺は全て腹におさまりました。
失われていた理性が、急激に戻って来るのを感じます。
ここで、ちょうど腹八分目。
いつだってそうなのです。
前に来た時も、その前に来た時も、そのまた前に来た時も……
もしここで「ごちそうさま」が言えたなら、私は人としてもっと高みに到達できたことでしょう。でも――
「お腹いっぱい食べたいじゃない!!」(←魂の咆哮)
さあ、第二ラウンドのゴング!
ここから、満を持して「チャーシュー丼」の参戦です!!
それまでラーメンだった彼は、スープに姿を変え、セコンドに回りましたよ!
「改めて、いただきます!」
かっかっかっかっ……(飯をかっ込む音)
いやあ、肉厚のチャーシューからじゅわっと染み出る肉汁と、海苔の気高き香りが、この上なく米飯にあうのです。ちょいと下品ですが、スープをかけて、猫まんま風にして食べるのも良いですね。箸が止まりません!
かっかっかっかっ……ふぅ。
あっというまに、目の前の丼は全て空となりました。
やはり、肉と海苔と米の組み合わせは横綱と言わざるをえません。
これまた、なんたる黄金体験であることか……
§ § §
胃の中で、米と小麦がハーモニーを奏でています。
腹ははちきれんばかりですが、けっして苦痛ではない。
別腹とは、まさにこのことを言うのでしょう。
「ごちそうさまでした」
店員さんに声をかけて、店を出ます。
外気を肺に取りこんだ瞬間、ふっと意識が遠くなる。
なぜでしょう? 家系ラーメンを完食すると、いつもそうなるのです。なにぶん刺激の強い味ですから、脳がクタクタになっているのかもしれませんね。
時刻は、まもなく日付をまたごうとしています。
(また睡眠時間が6時間を切っちゃうなあ……)
鬱々とした気分で、家路を急ぐ私。
社畜だった頃は、そんな毎日だったのです。
最後に、ありがとうラーメン。
あの地獄を乗り越えることができたのは、君という癒しがあったからだ。
最近物価が上がったせいで、すっかりご無沙汰になっちゃったけど、近いうちに宝くじが当たる予定だからさ。また食べに行くよ。
その時は味玉をダブルで追加しちゃうから、もう少し待っていてくれたまえ。
――どんどはれ。




