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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.5.10 断ち切るもの

 最近、包丁を使う機会がめっきり減った気がする。

 なんでだろうと考えてみたら、キッチンバサミが原因のようです。

 その使い勝手を包丁と比較すると――

 

・まな板を用意しなくていいことが多いので、洗い物が減る。

・切った食材の見た目は悪くなるが、どうせ自分で食べるものだから気にしない。

・刺身のサクを切り分けるとき、スジごと断てるのは本当にありがたい。


 そんなこんなで、最近、彼を重宝しているのであります。


 ……そう言えば、キッチンバサミにはちょっとした思い出があるのですよ。


 ぽわわわ~ん(思い出をたどる音)


 むかしむかし、某百貨店でアルバイトをしておりました時のこと、

「5,000円以上買い物をしてくださったお客様にキッチンバサミをプレゼント」

 というイベントが開催されたことがありました。


 その日の私の役割は、引換券とハサミを交換すること。

 ぶっちゃけ、美味しい仕事であります。

 ずっと座ったままでいいし、重たいものを運ぶようなこともありませんからね。

 やってくるお客様も、おまけをもらえるわけですから、ニコニコと機嫌が良い。


(ああ、一生こんな仕事をしていたいぜ……)


 そんな気持ちでした。

 しかし、この吉田晶の人生に、そんなうまい話があるわけないのです。


「アンタッ! いったいなんてことしてんのよッ!!」


 突然の大声に顔を上げると、まるでムーミン谷から来たような老婆がこちらを睨みつけているではありませんか。

 私が口を開く前に、彼女はたたみかけます。


「今のご時世にね、こんな危ないものを配ったら、犯罪が起きるでしょ!」


 ああ、なるほど、そういうタイプのいちゃもんですか。

 バイトはクレーム対応をしてはいけないことになっていますので、

「少々お待ちください、いま社員を呼んでまいりますので」と言えば、

「社員じゃねえよ! アンタに言ってるんだよ!!」と激おこです。


 こういう人は、基本、誰かを怒鳴りつけたいだけなのです。

 こっちは慣れっこですから、黙ってハイハイと頷きます。


 5分くらい叱責が続いたあたりで、相手が急に静かになりました。

 こちらも何も言わずにいると――


「アンタね、こっちは客なんだよ! ああ、ああ、ぐずぐずしてんじゃないよ!

 はやくそれ(ハサミ)を寄こしな!」


 そう言って、引換券を叩きつけてきたではありませんか。


 何が起きているのか頭が追っつかないまま、ハサミの入った箱を差し出す私。

 老女はそれをひっつかむと、フンと鼻をならして去っていったのでありました。


 それから数拍おいて、じわじわ、じわじわと笑いがこみあげてきました。

 ようやく状況が飲み込めたのです。 

 なんたるシュールな展開。


(あ、あれだけ非難しておいて、結局ハサミはもらって帰るのかよッ!

 なんだよコレ、おもしろすぎる……たまんねえ……フ、フヒヒヒッ!)


 仕事中でなければ床に笑い転げていたでしょう。

 けれど、お客さんを前にそんなことはできません。


 必死に奥歯を噛みしめながら業務をこなしましたとさ。


 どんどはれ。

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