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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.5.7 TAMON

 ぎりぎり10代だったころの話――


 なぜだかは憶えていないのですが、東京調布の深大寺を一人で()()()()()ことがありました。

 若葉が目に眩しかったので、今頃の季節だったのかもしれません。


 深大寺は、知る人ぞ知る蕎麦の名所です。

 十を超える蕎麦屋が軒を連ねているその様子は、なかなかの迫力であります。


 多分、バイト代が入ったか何かで、ふところが温かかったのでしょう。

 吉田青年は、生意気にもそこで昼飯を食べることにしたのでありました。


 さて――

 当時、携帯など持っていなかった私は、なるべく繁盛していそうな店を選ぶことにしました。


(繁盛しているなら、まずいということも、高すぎるということもあるまい……)


 そうして選んだお店は、今でも憶えております。

 「多聞」という名前でありました。


 昼時だったので、かなり待った記憶があります。

 そうして案内された店内の雰囲気は、古い蕎麦屋によくある、仄暗くて落ち着いた感じ。


 私は席につくと、すぐに「もりそば」の大盛りを頼みました。

 すると店員さんがこんなことを聞いてくるのです。


「あの、うちは量が多いですけど、ほんとうに大盛りでよろしいですか?」


 今でも、「富士山もり」(※)がペロリといける私です。

 若い頃であれば、なおさらのこと。


「あ、はい、大丈夫です」


 大して悩みもせず、そう答えました。

 ふふ、他人の忠告は素直に聞いておくべきですよね。

 お約束の展開です。


 程なくして、蕎麦が運ばれてきました。


「ゔぉぉ……」


 おもわずくぐもった声が漏れます。


 見たとこ、洗面器一杯分くらい量があります。

 想像をはるかに超えてきました。


 とりあえず、いただきます……


 美味しい。すごく美味しいのです。

 太さもしっかりとした蕎麦で、コシが強い。


 つまりは、ガッツリお腹に溜まるタイプの蕎麦です。

 それでこの量……


 とにかく箸を進めていると、すぐ隣の席にガテン系の二人組が座りました。


 若手の方が、先輩に尋ねます。

「俺はもりそばの大盛りにしようかな……タナカさんは何にします?」


 すると先輩のタナカさん、こんなことを言うではありませんか。

「お前さあ、この店で大盛りなんか頼んだら、午後は仕事にならなくなるぞ。

大人しく中盛りにしとけ。な、悪いことは言わないから」


「いやいやいや、俺、けっこう腹減ってるし、余裕ですよ!」


「馬鹿野郎、お前、()()アンザイさんだってここで大盛りは頼まないんだぞ」


「マジっすか……アンザイさんでも……」


「食い終わったあとに平気な顔してたのは、ハラダさんくらいのもんだよ」


「あ~、あのヒト、人間じゃないっすからね!」


 もっと早く言ってほしかった……

 あと、ハラダさんっていったい何者……


 ハラダさんの存在が脳内で暴れる中、大盛りの蕎麦を何とか完食。

 多分、人生で一番満腹な瞬間だったと思います。


 店から出たが、とても動けそうにない。

 ベンチでしばらくウンウン唸っていたのはほろ苦い記憶なのです。




 で、そのことが急に懐かしくなって、ネットで検索してみたのです。

 そうしたら「多聞」、まだ続いていましたよ。

 やっぱりボリュームがすごいことで有名みたいですね。

 大盛りの写真もしっかりアップされています――


(あれ? この程度だったっけ!?)


 かつて自分が注文したときは、もっと尋常じゃない量が来たような気がするのですが……


 うーん、記憶ってのは、大げさな方向に書き換えられていくんですかねえ?


 どんどはれ。

 

※「富士山もり」

立ち食いそばのチェーン店「名代 富士そば」のメニュー。

要はもりそば3人前。

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