2025.5.6 やつらは眠らない
ばばばばばばばばばばばばばば……
ヘリコのプロペラ音にかき消されぬよう、男は声を張り上げる。
「Hey! 吉田ボーイ!!
こいつぁ幼稚園の年長さんだってできる簡単なタスクだ!
いいか、ボタンを押したら、その指をすぐに離す!
たったそれだけだからなぁ――」
ばばばばばばばばばばばばばば……
「ただし、万が一にも振動が伝わったりしたら、ヤツはすぐに目を覚ます!
……心の準備はいいか? いくぞ!」
「3」
「2」
「1」
「0」
カウントゼロ。それと同時に、指に力をこめる。
画面は暗転、同時に素早くボタンから指を離す。
(しまった!?)
手を離した瞬間、小指がマウスに擦れてしまった。
ブウンと低い駆動音。
ヤツがふたたび、目を覚ます――
§ § §
ポンポコポン☆ ポンポコポン☆
右も左もごきげんよう☆
宿主が五月病で動けなくなってしまったので、今日はわらわ(※)が代筆することになったのじゃ。
すまんのう、明日になれば現実に戻ってこられると思うのじゃが。
さて、皆の衆は、PCのすりぃぷ機能を使いこなしておるじゃろうか?
わらわ、どうにもアレと相性が悪いのじゃ。
復帰が一瞬(起動する必要がない)というのが大きな利点だというのは、すごくよくわかる。
だがのう、どうにもPCにおちょくられている気がするのじゃ……
PCを使い終わるじゃろ。
電源こまんどから「スリープ」を選んで左くりっくするよな。
そこまではよい。
けれど、まうすから手を放すとき、少しでも振動を加えると――
あなや! すりぃぷから復帰してしまうのじゃ。
その鋭敏たること、多分1みっきぃ(※)でも動いたら一死なのじゃ。
もはや「だるまさんがころんだ」を通り越して「FF6のエアアンカー」の域。
正気の沙汰とは思えぬわ……くわばら、くわばら……
使っているまうすを「デバイスマネージャー」で特定して、
「スタンバイ状態を解除できるようにする」のちぇっくを外してもダメ。
これ以上、わらわにどうしろと言うのじゃあ……
そうそう、すりぃぷ機能に関してはもうひとつ物申したいことがこれあり!
夜中に厠に行きたくなって目を覚ますと、なんだか部屋が明るい。
――そう、PCがすりぃぷ状態から勝手に起動していやがるのじゃ。
「あ、サーセン。目が覚めちゃったんで勝手にお茶いただいてます。
どうぞおかまいなく~」
そんなことを言っているのが聞こえるようで、心穏やかではいられぬ。
こまんどぷろんぷとで
「powercfg -devicequery wake_armed」
(スリープが解除される原因はなんじゃらほい?)
を入力しても
「None」(しらんがな)
と返って来るし、一体全体なんなのじゃ!?
「PCのシステムが一致団結して自分に歯向かっている」
そんなふうにしか思えないのじゃ! ムキーッ!!
そんなとき、当のPCが脳内に直接語りかけてきます。
(あのぅ、すいません)
(なんじゃ?)
(自分はマシンなんで、命令された以外のことはできないんですよ)
(……それで?)
(スリープが自動解除される原因が見当たらないなら、誰かが手動でPCを復帰させているんじゃないですかね。あ、お伝えしたかったことはそれだけです ノシ)
ちょ、待て、それっていったいどういう……
え、え、つまり何かがこの部屋に……
ひょええ~! ひょえええ~!!
恐ろしいのじゃあ……恐ろしいのじゃあ……(ガチ泣)
――そんなわけで、スリープ機能を使うのを諦めましたとさ。
どんどはれ。
※わらわ
吉田晶の脳内に潜む人格の一つ。齢を経た雌狸。あざとい。
※ミッキー
パソコンを操作するときに使われる、マウスの移動距離を表す単位。
1ミッキー≒0.254mm
ずっと「ピクセル」だと思っていたが、違うらしい。




