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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.5.4 事故物件(前編)

 世間はGWだとかで浮かれておりますなあ。

 ようがす。この「裏裏」でも、とっておきのネタを披露するといたしましょう。


 さて――

 大きな声じゃ言えないんですけどね、

 自分が住んでいるこの部屋、事故物件なんですよ。


 2年くらい前に、一身上の都合(この言葉カッコいいね)で引っ越すことになりまして、新たな住まいを探しに不動産屋へ行きました。


「1Kか1DKで、駅近で、海の近くで【中略】家賃は5万円以下でお願いしまぁす」


 自分が不動産屋だったら、店から叩き出してやるような条件です。

 もちろん、そう簡単に合致する物件が見つかるはずはありません。


 余談ですが、意外にもネックになったのが「二口ふたくちコンロが設置できる部屋」という条件。

 一人暮らし向けの物件だと、この「二口コンロ」に対応している部屋が驚くほど少ない。かといって、1LDKなんて借りてもスペースが余ってもったいない。


 なかなか折り合いがつかず、交渉決裂かというところで、不動産屋のお姉さんが

こんな言葉を口にしました。


「あの、お客様は……その……霊感が強かったりしますか?」


 来た!

 来ました! 来ましたよ!

 そんなの「事故物件」に決まっているじゃないですか!!

 その響きだけで御飯3杯は行けちゃいます!!!


 脳内はリオのカーニバル状態ですが、私はカマトトぶって尋ねます。


「え? 霊感って、お化けが見えるとかそういう意味ですか?」


「ええ、実は居住者の方が室内で亡くなった物件がございまして、

そこならばご提示いただいた条件をすべて満たしているのですが――」


 聞けば、駅まで歩いて5分、電子ロックとエアコン完備、築浅、さらには海まで歩いて30分でありながらハザードマップ的にも問題無しという超優良案件。


 そいつがなんと相場の3割引きで借りられちゃう!

 大事なことなのでもう一度――

 相場の3割引きで借りられちゃうのぉぉ!


 小躍りしたい気持ちで私は言いました。

「霊感とかぜんぜん無いので、そこに決めます。手続きを進めちゃってください」


 すると不動産屋さん、ちょっと待って欲しいと言うのです。

「とにかく、部屋を一度見てほしい」と。


 なるほどなるほど、そりゃあ向こうからしてみれば、下見もせずに契約して、後になって「こんなはずじゃなかった」とか言われるのは嫌ですもんね。


 その日は時間がありましたから、さっそく不動産屋さんといっしょに下見に行くことになりました。

                               (続く)

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