2025.4.30 インド飲み
新型コロナではなかったはず……
SARSだったか新型インフルエンザだったか……
まあ、要するに世間を騒がすような病気が流行っていた時のこと。
「ペットボトルを直接口につけることなく飲む」
そんなドリンキンスタイルがもてはやされたことがありませんでしたか?
ちなみにこの飲み方、今では「インド飲み」と呼ばれるそうですが、当時はそんな名前、まったく広まっていませんでしたねえ。
――まあ、それはさておき
この「インド飲み」、言わんとしていることは理解できます。
ペットボトルの飲み口に唇が接触すれば、たしかに感染する確率は高くなりますから。
だから私も、職場で話題になったとき、ためしてみたんですよ。
別に、免許がいるって話でもないじゃないですか。
自転車に乗るよりは、ずっと簡単そうだったし。
さて、記念すべきインド飲み1回目――
どぼどぼぐわああああ~ッ!?
案の定、紅茶●伝ロイヤルミルクティーは口から少し下へずれて着地、
ワイシャツとジャケットに飛び散りました。
よりにもよってミルク系の飲み物で服を汚すとは、ああ無惨。
私があたふたしていると、後輩のUが、
「さすがは吉田サン、期待を裏切らないっスね~」などとぬかしやがります。
私は冷静を装いながら、言ってやりました。
「いや、これ、相当難しいって。チミもやって見たまえよ」
もちろん、心の中ではドス黒い怨念が渦巻いております。
(くくく、きさまも汚濁にまみれるがいいさ!)
ところがUのやつ、それは優雅にインド飲みを成功させたではありませんか。
「……ずるい! ずるいぞ! 陰で練習してたんだろ!」
私が青筋を立ててそう詰れば、
「吉田サ~ン、こんなのわざわざ練習するやついませんよぉ(ぷーくすくす)」
などと余裕しゃくしゃくなのです。
くやしい!
前世がインド人でもない限り、ぶっつけ本番で成功するとかありえませんよ!
あんまりくやしいから、その日、ミネラルウォーターのペットボトルを買って帰りました。無論、修行のためであります。
貴様は修行が足らんだけだ!
日々の修行は後悔を淘汰してくれる
俺の言ってる意味がわかるか?
ある種の後悔はとりもどす事ができるんだ
後悔をとりもどした時 それはとても強いものとなる
(by ルチャマスター)
家に帰り着くやいなや、脱衣です。
水がこぼれても大丈夫なように、パンツ一丁になりましたぞ。
前回は口より下方向にずれちゃいましたから、それよりこころもち上を狙えば
いいだけの話。
さあ、いきますよ、インド飲み2回目――
どぼどぼ……ぐぼぼぼぼッ!?
口にはちゃんと入りました。
しかし勢いが強すぎて、喉の奥のほう、
入っちゃいけないところにクリティカルヒット!!
やばい、息を吸っても吐いても、水が肺の方に侵入してきやがります。
ヷヷヷ~~ッ
まるで、釣り上げられたゴマフアザラシのようにのたうちまわる私。
薄れゆく意識の中、ミネソタにいるジェシカおばさんとヘンリーおじさんが、
川の向こうから手招きしていますよ。
"Hi Momotaro, nice to meet you."
――って誰だよアンタら!?
はっと意識を取り戻し、七転八倒の末、
なんとか水分を気管から追い出すことができました。
あぶねえ……もう少しで明日の朝刊のトップ記事を飾るところでした。
「吉田晶、パンツ一丁で自室にて溺死」
……こんなの、死んでも死にきれませんよ。
水はペットボトルに半分以上残っていましたが、普通に口をつけて飲み干してしまいます。
(もう二度と、インド飲みなんてするもんか)
そう心に固く誓ったのでありました。
§ § §
ところがですね、今日、突如あのときの敗因に思い至ったのですよ。
すっごくシンプルな話です。
いいですか――
いきますよ――
「ペットボトルを、ゆっくりと傾ければいい」
ただ、それだけのことだったんです。
「どぼどぼ」じゃなくて「ちろちろ」から始めればよかったんです。
実際試してみたところ、こぼすこともむせることもなく飲むことができました。
あのとき、どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったのでしょう?
……きっと、生き急いでいたんでしょうね。
よし、なんとなく綺麗にまとまったぞ。
それでは、今日はここまで。
どんどはれ。




