2025.4.10 Kという人
※注意※
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
§ § §
Kという人は、私の対極に位置するような存在である。
若い頃の彼女は(私の視点からすれば)いわゆるギャル系であった。
無駄な行動力に満ちあふれ、その言動はチャラかった。
もっとも、向こうからすれば私の第一印象は、
「虚無僧」
だったらしいから、お互い様と言えよう。
さて、そんなKは、語学に堪能なんて一面も持っている。
某大学の英文学科に進学したのち、誰もが名前を知っているような大手企業に楽々と就職してしまった。
「英語だけじゃなくてスワヒリ語も話せますよ~とか、マラリアに3回も罹りました~って話をすれば、企業の面接はだいたいクリアできちゃうんだ。いやあ、本当にタンザニアに留学してよかった!」
タンザニアとは東アフリカの一国であるが、彼女がそこに留学した経緯もまた、ファンキーである。
§ § §
Kが大学で在籍していた学科は、その性質上、語学留学をする者が多かった。
そのため彼女も、なんとなく「英語圏」での留学を希望した。
ちなみに、留学先の第一希望はスウェーデン。
学校に提出する調書の志望理由欄には「世界一有名なヒポポタマス」に対する熱い思いを、これでもかと書きつけたのだという。
思わず私が「ムーミンはフィンランドだろッ!」とツッコむと、彼女いわく、
「お隣だからいいじゃん!」
……常識的にかんがみて、よろしくはございませんよお嬢様。
案の定、タワケな調書を出した彼女は選から漏れてしまった。
落選の表向きの理由は「応募者多数のため」。
そして、代替地として大学側から提示されたのが、タンザニアであった。
タンザニアも確かに「英語圏」ではある。
しかし、北欧とアフリカとではあまりに隔たりがある。
文化が異なる。歴史背景も異なる。
年間平均気温の差はまさかの25℃。
そして何より、ムーミンがいない。
大学側は、こんな不埒な奴を海外に出すつもりなど初めからなかったのだろう。
だからこそ、こんな無茶な提案をしたのだと私は踏んでいる。
ところが彼女は、大して悩むこともなく、タンザニア留学を決めてしまった。
「ムーミンはいないけど、カバがいるから、まあいいかなって」
大学の担当者は、思わずのけぞったに違いない。
彼らの最大の敗因は、Kのムーミン愛がその程度であったということである。
§ § §
かくしてKは、アフリカの地へと旅立った。
その先に数奇な運命が待ち受けていることを、彼女はまだ知らない。
(「怪談短編集(仮)」→「タンザニアにて」へ続く!)




