2025.10.2 名探偵の無駄づかい(後編)
【前回のあらすじ】
「短い話だから、前回をもう一回見直してきたらいいと思う」
三谷●喜が、そんなことを言っていた気がする(←ウソつけ)
§ § §
「んっん~、ところで~、そうめんの茹で時間ってどれくらいでしたっけ?」
警部補の質問の意図がつかめず、吉田は訝しげな表情で答えた。
「1分30秒ですね」
「ソーセージを電子レンジで温める時間は?」
「40秒です……って、この質問、なにか事件に関係あるんですか?」
「いえ~、ちょっとした好奇心ですよンッフッフ」
その時、誰かの携帯電話が鳴った。
バツの悪そうな表情を浮かべた警部補が、一言断ってから電話に出る。
「もしもし。……え、お昼ご飯を奢る予定だった? 私が君に? 憶えてませ~ん。
……今ね、聞き込み中なんだよ。忙しいのっ!」
通話は、問答無用といった体で打ち切られた。
「もうこんな時間なんですね。刑事さん、お昼休みは取らなくて大丈夫ですか?」
聞くともなく耳を傾けていた吉田が、申し訳なさそうに言った。
「すみません。電話を掛けてきたのは部下なんですが、どうにも気が利かなくて……そうだ、吉田さん。今から、先日とまったく同じように、そうめんとソーセージを調理してみてください。あ、もちろんご自身の分だけでかまいませんよ」
「え? それはいったい……」
「もしかしたら、謎が解けるかもしれません」
【暗転】
【スポットライト:警部補】
「え~、読者の皆様。今回の事件の犯人は、この部屋の住人、吉田氏で間違いありません。ヒントになったのは、彼の不器用でマルチタスクができないパーソナリティ。そして、電子レンジの端に乗せられたサランラップ……あ、本気で悩んだりしないでくださいね。バカバカしいですから」
「――古●任三郎でした」
§ § §
「まず、大きい鍋でお湯を沸かす。その間に、麺つゆと薬味の準備をして……」
吉田が、ブツブツと独り言を言いながら料理の準備をしている。
「お湯が沸いたら、そうめんを茹でる。ソーセージはアツアツのものを食べたいから、そうめんを鍋に投入してから直ちにレンジでチン」
だったら、あらかじめレンジにセットしておけばいいのに……そうめんを鍋に投入してから、ばたばたと冷蔵庫をあさってソーセージを取り出しているていたらく。
警部補は、その手際の悪さに眉をしかめた。
もし目の前で料理をしているのが、さっきの電話をかけてきた部下だったら、嫌味の一つも投げかけていたことだろう。
吉田は、ソーセージを入れた器にビビビッとサランラップを掛けた。
そして、使い終わったサランラップをまるで投げるように電子レンジの上面の端に置いたのである(どうやらそこが定位置であるらしい)。
乱暴に置いたものだから、ラップはレンジの横にだいぶはみ出し、今にも落ちそうになっている。
「あああ、そうめんが茹で上がっちゃう」
そう言って吉田が鍋の方を向いた瞬間、警部補はレンジの上に乗っていたラップを指でつついた。
ラップは、洗濯機と冷蔵庫の隙間に落下した。
――カラン
その音を聞いて、吉田が振り返った。
慌ててラップを拾い上げると、また、レンジの上に戻す。
「なんだよ! もう! こんな時に!!」
彼は、そうめんの茹で具合に夢中で、事件が解決したことに気付きもしなかったのである。
〈名探偵の無駄づかい 完〉
§ § §
前後編と引っ張った挙句、こんなオチですいません……orz
つまりはですね、料理中、うっかりラップを冷蔵庫と洗濯機の隙間に落としてしまった。
それがブ●ックキャップに当たり、跳ねとばして、その結果、たまたま妙な格好で着地した。
ただそれだけのことなのです。たぶん。
なのに私ときたら、バタバタしていたせいで、ラップを落としたことも拾ったことも、記憶からすっぽり抜け落ちてしまっていたんですね。たぶん。
いやあ、規模としてはごく小さい事件なんですけどね、かなりビビりましたよ。
(不審者が入ってきて悪戯していったのかもしれない)とか妄想フルスロットル。
きっとこうしたささいなことで、警察を呼んじゃう人もいるんだろうなあ……と我が身を振り返って反省した次第であります。
あ、どんでん返しなんてありませんよ。
これ以上、説得力のある推理はありませんからね。
もう、お終いにしときましょうよ。
あんまり矛盾点をつつくと、怖いからさぁ……(;ω;)
どんどはれ。




