2025.9.24 地下鉄ハッチポッチばなし
昔々、通勤に地下鉄を利用していたことがあります。
いやあ、混雑の酷かったこと酷かったこと。
コロナ禍の影響もあって、今はずいぶん空いているみたいですが、当時はほんとにヤバかったのです。
誇張抜きで、人の圧で体が浮くんですよ。
人間の力ではどうにもならないレベルです。
そんな状態ですから、車内で無駄口を叩くような人は、ほとんどおりません。
だから、誰かの声が聞こえた時ってのは、大体トラブルなわけで……
§ § §
ある日のこと。
いつものように地下鉄に乗っていると、自分の脇のあたりから声がするのです。
「痛い……痛いよォ……そんなに押されたら、死んじまうよォ……」
首だけ動かして見れば、声の主は年配の女性でした。
それも「ぽたぽた焼き職人を10年前に引退した」って感じのおばあちゃん。
もうね、頭の中では井上〇水が、例の名曲を熱唱中ですよ。
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電車は 今日もスシヅメ のびる線路が拍車をかける
満員 いつも満員 床にたおれた老婆が笑う
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いやいやいやいや、こんなところで倒れたら笑い事になりませんから!
あのコミュ障の吉田サンが「大丈夫ですかっ!?」って声をかけるほどですから、そのヤバさは十分に伝わると思います。
ところがおばあちゃん「大丈夫ですっ」って答えるわけです。
いやいやいや、どう見たって大丈夫じゃない。
しょうがないから、こう、彼女をかばうような体勢で頑張ったんですけどね、あの満員電車の圧力は、個人の努力で何とかなるもんじゃない。
まあ、おばあちゃんは次の駅でどうにかこうにか降りられたから良かったけれど、私の肉体は朝からバッキバキでしたとさ。
§ § §
また別のある日、電車が遅れて混雑していた時のこと。
人の波によって壁際に押しやられ、ちょうど「塀にへばりつくヤモリ」のような体勢で、一切の身動きが取れなくなっていたワタクシ。
そうしたら、頭のすぐ後ろから若い女性の声が――
「テメェ! どこ触ってんだよ!!」
え? 私? 私が疑われている!?
いやいや、両手はここ!
見て! ヤモリ状態だから、お姉さんにタッチはアイキャント!!
と内心焦りまくっていると、やはり頭のすぐ後ろで男性の声がしました。
「こんなに混んでいるんだから、しょうがねえだろ!」
どうやら、疑われていたのはそのおじさんだったみたいです。
ほっと胸をなでおろす私。
それにしてもおじさん、その言い訳は完全にアウトじゃねえかなあ。
案の定、「痴漢だ」「痴漢じゃない」の激しい言い争いが始まりました。
つらい……
耳元で、敵意をむき出しにした声で怒鳴られるのは、本当につらい……
すると、ちょっと離れたところから、
「おい、その痴漢のオッサン、次の駅で引きずり降ろせ!」
って、ドスの効いた誰かの怒鳴り声が聞こえたわけですよ。
でもさ、この満員電車でどうやって引きずり降ろすんだろう?
そう思っているうちに、次の駅に着きました。
途端、ケンカをしている二人から一番近い入口の扉まで、道ができたんですよ。
これっぽっちも余裕がないはずの車内に、獣道程度ではあるんですけど、確かに道ができたんです。
なんというか、非常事態における団結力の凄まじさを感じました……
で、そこを通って、触られたほうのお姉さんが、触ったと思しきおじさんを引きずり降ろして行きましたとさ。
その先は、知る由もありません……(震え声)
§ § §
いやあ、読み直してみたら、重たい話が続いちゃいましたね。
そこでお口直しに、頭が空っぽになるほど軽い話を一つ。
これほど意味のない話は、ちょっと珍しいくらいです。
心の準備はいいですか?
さて――
地下鉄銀座線に、「溜池山王」って駅がありますよね。
その駅名を見るたびに、なぜかマイケル・ジャクソンのことを思い出すのです。
なぜだろ~♪(ポ~ゥ!!)
ふしぎ~♪(ポ~ゥ!!)
ある時、とうとう気が付いたんです。
まず、地下鉄に乗っているところを想像してみてください。
溜池山王駅を通るとき、地下鉄の進行方向によっては、「溜池山王」と書かれた駅名の看板の文字が、右から順に目に入ることになりますよね。
つまり「王」→「山」→「池」→「溜」です。
で、これをカナに変換します。
「オウ」「ヤマ」「イケ」「ル」
――オウヤマイケル
なんとまあ、Oh yeah Michael と読めるではありませんか!
潜在意識下で、脳が勝手に文字を変換していたんですよ!
だから、溜池山王の駅名を見るたびにマイケルジャクソンを連想していたのです!
これ、誓って実話ですから! ポ~ゥ!!
……だから私、言いましたよね。
「まったく意味がないですよ」って。
そんな顔するの、やめてくださいよ。
はいはい、どんどはれッ!!




