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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.4.6 月光のミステリー 解決篇

 前回のあらすじ


 中島みゆき、アニソン、音痴が織りなす三重奏。

 

 “地獄とはここだ。ここにある”            

      ――Commodore Guff



                § § §



 さて、3週目に突入です。

 早くも手持ちの曲が尽きてしまった私。


 正念場です。

 これ以降は、ノリと勢いだけでなんとかするしかありません。


「人を恋ふる歌」で押し切るか――

「親知らず子知らず」でドン引きさせるか――


 ああ、もういっそ、金子由香利の「スカーフ」をアカペラで披露して、

この場を恐怖のズンドコに叩き落してやろうか!


 そんなことを考えているうち、先輩の「旅人のうた」が終わりました。

 続いて流れてきたイントロは……


 『ムーンライト伝説』


 あれ、さっきも聞いたぞ、これ?

 先生、酔っぱらっているのかわざとやっているのかは知りませんが、平気で()()()を使ってくるではありませんか。


(いや、これはチャンスなのでは?)


 歌い終わった先生に、私は尋ねました。


「実は私、持ち歌が『荒城の月』と『およげ!たいやきくん』しかないんですぅ。

だから、もう一回『荒城の月』を歌っちゃってもいいですかぁ?」


「もちろん! 僕だって『薔薇は美しく散る』と『ムーンライト伝説』以外の曲は歌えないから!」


 熱く握手を交わす二人。

 こうして……


 ①中島みゆき(先輩)

 ②薔薇は美しく散るorムーンライト伝説(先生)

 ③荒城の月orおよげ!たいやきくん(私)

 ④中島みゆき(先輩)

 ⑤(以下略)


 という悪夢のような無限コンボ――

 名付けて「ヴァルプルギスの永久機関」が完成しました。


 MTG(ギャザ)のぶっ壊れアーティファクトめいたそれは、始発の時間まで、

 ぐるぐる、ぐるぐると、止まることなく巡りつづけたのでございます。



                § § §



 止まない雨がないように、終わりなき夜も存在しない。

 そう、朝がやってきたのです。


「いやぁ、ほんとうに楽しかったよ。

このカラオケ会さ、月一くらいで定期開催しない?」

 そんなことを()()()()先生を先輩になすりつけ、

「あ、私は自転車ですので、駐輪場は駅と反対方向なんですよ~、

いやあ、今日はありがとうございました!」

 そう言って、一足先に戦場から離脱しました。



 ――以上が、私の思い出した記憶の全てです。


 そりゃあ、あんなに何度も同じ曲を聞かされれば、歌詞くらい嫌でも憶えてしまいますよ。

 怖いですねえ、恐ろしいですねえ。

 皆さんも「ムーンライト伝説」を聞くたびに、この話を思い出してください。

 それでは、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。

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