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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.9.21 この無駄はラグナロクのために(1)

 北欧神話には、「フェンリル」と呼ばれる狼が登場します。


 ロキという神様の子供で、子どもの頃はわりと普通の狼だったのですが、おそらく、脚が尋常じゃなくぶっとかったのでしょうね(※)。

 

「こいつ、絶対に手に負えないくらい大きくなるよな……」


 神々は、フェンリルの未来の姿に戦々恐々としたと伝えられています。


 さらには追い打ちをかけるように、確かな筋から「神々に仇なす存在となる」と予言されちゃうフェンリル。


 当時の常識的には「殺すべし」となるところなのですが、諸般の事情で、神々はこの狼を拘束するにとどめます。


 ――結果だけみれば、この判断は大きな過ちとなりました。


 ラグナロク(神々 vs 巨人族の最終戦争)の際、フェンリルは縛めから解き放たれ、巨人族の切り札として大暴れするからです。

 その頃には、体の大きさも「口を開けば上顎が天にも届く」ほどに成長しており、ついには主神オーディンをパックンチョと一口に飲み込んでしまいます。

 

 強い、強いぞフェンリル狼!

 しかし「巨狼の最強伝説、ここに始まる」とはいきませんでした。


 にっくきオーディンを倒して油断したのか、フェンリルはオーディンの息子ヴィーザルにあっさり逆襲を許してしまいます。

 下顎を靴で踏みつけられ、上顎を手でつかまれて、そのまま真っ二つに引き裂かれてしまったのです。


 いや、なんと申しますか……

「サイズ的に無理があるんじゃないの?」とは思うのですが、神話ですからね。

 細かいことを気にするのはやめましょう。


 さて、今回の話で大事なのはそこじゃあございません!

 このときヴィーザルの履いていた「厚い靴」に御注目。


 こいつは、「人々が靴を作る際、爪先と踵の部分から切り捨てる三角の革をつなぎ合わせて作った」とされる概念的な存在であります。

 そのため、リサイクル品とは思えないほどの強度を誇り、フェンリル狼の鋭い牙に傷つくこともありませんでした。


 だから、北欧の古人は言ったのです。

「靴を作る際、爪先と踵の余分な革は切り捨てなくてはいけない」と。


 ところで、現在はどうなんでしょうね?

 革靴を作る際に出た端切れ材は、アクセサリにしたり、あるいは粉々にして、靴底などに再成形するなんて話を聞いたことがあります。

 だとすると、「ヴィーザルの靴」の強度は、だいぶ弱まっている可能性があると考えられないでしょうか?


 あ、ちなみにラグナロクは、必ずしも「過去にあった話」として書かれているわけではありません。

 あくまで「世界の終末」について描かれているにすぎないのです。

 ですので、もし明日にでもラグナロクが起きたら、人々が靴の切れ端を棄てなくなったせいで神々が負けてしまった……

 そんな未来もあり得るんじゃないかなあと、密かに心配しております。


 なんだか「下水が整備されたら、栄養分が流れなくなって海が痩せてしまった」

そんな現実の話と通じるものがあるような気がするんですよね……


 って、また脱線してしまいました。

 なぜこんな話をしたかと申しますと――


(本題に入れぬまま次回に続く!)

※「ぶっとい脚は大きくなるしるし」(by動物のお医者さん)


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