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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.9.20 ウィザードリィなんかじゃない(2)

【前回までのあらすじ】

・魔術師が冒険に出る前に瀕死

・RPGのパーティには、回復役(僧侶)と鍵開け担当(盗賊)が必要だ



                § § §



【キャンプ】

ヨシダ・アキラ レベル1 中立―戦士 人間

デンショウ   レベル1 善―司教  ワータヌキ

ナツメ     レベル1 中立―侍  人間

ユースケ    レベル1 善―魔術師 人間




【ギノレガメッシュの酒場にて】


「ダメでしたか……」

 報告を受けた魔術師ユースケは、深い溜息をついた。


 瀕死のユースケが宿屋の簡易寝台(※1)で一週間死んだように眠っている間、

残されたメンバーは、僧侶と盗賊の募集をしていたのだ。


 ところが、力を貸してくれる者はなかなか現れなかった。

 酒場にたむろする冒険者たちは口々に――


「んー、HPが2の魔術師がいるようなパーティは、ちょっとねえ……」


「侍は頼りになりそうだけど、戦士の能力値が低すぎるだろ」


「種族がワータヌキ(※2)って、聞いたこと無いんだけど……

 もしかしてチート? それともバグ? どっちにしろ怖ッ!」


 僧侶と盗賊はサポート役であるため、基本、戦闘能力は低い。

 だからこそ、生き延びるために、同僚を見る目は厳しくなるのだ。




「すまぬ。わらわが狸人ワータヌキなどという胡乱な種族だったせいで……」

 司教デンショウが、申し訳なさそうにうなだれる。


「いやいや、僕のHPが “2” ってのも問題だったのでしょう?」

 ユースケもまた、しょんぼりしている。


「まあまあ二人とも、元気をお出しなさいな。パリパリポリポリ」


 戦士ヨシダが、ギノレガメッシュの酒場名物「キュウリの浅漬け」を頬張りながら無責任に言うものだから、聞き捨てならぬとばかりにナツメが声を荒らげて――


「諸悪の元凶が偉そうに何を言っているんだよ。そもそもアンタがねえ……」

「ごめ~んちゃい(はあと)」


 反省の色が見えぬヨシダに、ナツメのアイアンクロ―が迫る。


「わあっ、待った待った。暴力反対!」

「問 答 無 用」

「わかった、わかった。私が何とかするから」

「何とかするって……何をどうしてくれんのか、具体的に言いなよ」


「簡単な話さ、私が3人分になればいい」


 ヨシダは、どこかの念能力者のようなセリフを吐くと、両手を組んで印を結ぶ。


「臨・兵・闘・者……ええと、なんとかかんとか!……クジャク~ッ!」


 ボコンボコンボコン


 真言に呼応するように、ヨシダの腹が膨れ上がった。

 服を突き破って見えるヘソには、何やらおぞましい芽のようなものが蠢いている。


「お客様!! 困ります!! あーっ!! 店内での魔法の行使は困ります!!」


 魔力のうねりを感じ取ったウェイトレスがすっ飛んできた。

 ヨシダは膨れ上がった腹をさすりながら、彼女に向けてウィンクを投げた。


「何、ちょっとした手品だから。キミも見ていくといいよ、うふふ」


 するとどうだろう。

 臍から生えた植物は、みるみるうちに成長し、花を付け、やがて二つの巨大な実を結んだ。


 どすん

 どすん


 どこかイチジクを思わせるそれは、自らの重みに耐えかね、地面に落下する。

 その衝撃で果実はぱっかりと口を開き、中からそれぞれ男が這い出てきたではないか。


 覆面にフンドシいっちょの男が言った。

「拙者は、忍者・ヨシダ!」


 頭を河童のように反り上げ、カソックを纏った男が言った。

「それがしは、僧侶・ヨシダ!」


「「コンゴトモヨロシク!!」」




「コンゴトモヨロシク」

「コンゴトモヨロシク」

「コンゴトモヨロシク」


 SAN値が減少し、一時的狂気に陥ったウェイトレスが、壊れた蓄音機のように「コンゴトモヨロシク」を繰り返す。


「うっうっ……ひどい。こんなの、ウィザードリィなんかじゃない……」

 両手で顔を覆いながら、ユースケがすすり泣く。


「我が宿主ながら、なんと冒涜的なのじゃ……」

 デンショウがそう呟くと、ヨシダは鶏のから揚げをつまみながら言った。


「おいおい、そりゃ随分なお言葉だなあ。

 君だってこうやって生まれてきたの、忘れちゃった?」


「――!?」


 デンショウの声にならぬ叫びが、店内に響く。




 冒険者の集う酒場の夜は、ますます混迷を深めていくのであった――

※1……簡易寝台

この世界において、HPを回復する手段は限られている。


①回復呪文を使う

②アイテムの力を借りる

③ダンジョン内のイベント(例えば回復の泉)

④宿屋に泊まる


今回のパーティについて考えてみよう。

①回復呪文の使い手がいないので不可能。

②HPを回復するアイテムを購入するという手もあるが、一番安い「傷薬」でさえ、宿屋のロイヤルスイートに一週間宿泊するのと同じだけの費用(500G)がかかる。

駆け出しの冒険者たちには難しい。

③そもそも、ダンジョンに足を踏み入れてもいない。

④よってユースケは、宿屋の一番安い「簡易寝台」にて傷を癒すことになったのである。この「簡易寝台」、一週間泊まって回復するHPはたったの1である。それでもお値段は10G、日本円に換算すると35,000円程度である。


※2……種族がワータヌキ

ちなみにウィザードリィでは、シナリオによって「ワービースト」という種族があったりする。その世界線であれば、デンショウが奇異の目で見られることはなかったであろう。

しかし、この世界で「ワービースト」は一般的でないようだ。

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