2025.9.11 『日本のきのこ』
今、私の手元にあるこの本――『日本のきのこ』。
先日、バカマツタケの記事を書いた際に参考にしたものです。
発行は「山と渓谷社」で、日本に生息するきのこのうち、およそ950種を網羅した写真図鑑であります。
初版は1988年(私が持っているのは1991年の第6刷)ですが、現在も増補改訂版が発売されており、まさにロングセラーと言えましょう。
さて、この本の特色。それは何と言っても、「毒」と「味」についての記述が充実していることです。
本書において、各きのこの毒と味はそれぞれ3段階で分類されています。
まずは、毒の方に目を向けてみると――
毒レベル1……食べると中毒症状を起こす
毒レベル2……死亡例はないが、楽観視できない
毒レベル3……過去に死亡例がある
例えば、毒レベル「3」の「コレラタケ」の解説はこんな具合です。
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きのこ約20本(傘の径2cm。柄の長さ6cmほど)を味噌汁にして食べ、約7時間後嘔吐、腹痛、下痢が始まる。
下痢はほぼ20分おき、脱水症状、1日後入院。入院時は独り歩きは困難、約30時間後、血圧が下がり軽いショック状態。
2~3日目は意識が不明瞭になり傾眠状態――
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まあ、名前を聞いただけで、食べたらどうなるかは丸わかりのコレラタケ。
このあとも症状の描写が続くわけですが、文章の最後に何気なく「左の写真のものも幼女2人を中毒させた(原文ママ)」とか書かれているわけですよ。
ちょっと待って、落ち着いて。文体がロバート・K・レスラーの『FBI心理捜査官』みたいになっちゃっていますよ!?
ちなみに、幼女たちは結局どうなったのか。そのことについては一切記載なし。
下手なホラーより怖いのです……
それはさておき……
一方、食用きのこの「味」のランクについては、どう定義されているのでしょう。
味覚レベル1……食用になる
味覚レベル2……食用になり、おいしい。
味覚レベル3……食用になり、きわめておいしい
ちなみに、本書においては「マツタケ」がレベル3で「バカマツタケ」はレベル2と評価されています。
どうにも納得いきませんでしたが、このグレード表示は「筆者が総合的に判断したもの」であり、レベル2と3は「差異がさほどない」とのこと。
そういうことであれば、とりあえずは矛を収めることにいたしましょう。
それにしても、この「筆者」のきのこの味に対するこだわりは大したものです。
例えば「ツクリタケ」というきのこ――名前だけではピンと来ないかもしれませんが、一般的には「マッシュルーム」という名で親しまれる食用きのこですね。
それを紹介したページに、こんなコメントが記されています。
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最近はサラダに生で使われるが、みてくれだけの食べ方で、きのこ本来の持味を生かした料理にはほど遠い。やはり炒める、煮るが基本。
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くぅぅ……「みてくれだけの食べ方」と来たもんだ!
厳しい、実に厳しい。
我らが海●雄山先生を彷彿とさせるような辛口レビューです。他にも――
「姿形からは想像もできないような、こっくりとした独特のうま味を持っている」
(ハエトリシメジ)
「なすと油味噌にして味わえば、なかなか捨てがたい風味が楽しめる」
(ムジナタケ)
さらには巻末で、「きのこ料理の用語とつくり方」や「どのきのこがどの料理に合うか」といったことまで紹介されているのです。
ね、なんだかすごい本でしょう?
資料としてだけではなく、読み物としても非常におもしろいので、おススメです。
……と無責任に言いたいところなのですが、最新版は税込みで8,800円もするんですよね。
自分の手元にあるものは定価4,630円。当時は消費税が3%だったとは言え、ずいぶんとインフレが進んだものです。
まあ、図書館にはほぼ確実に置いてあると思いますので、興味があれば目を通してみてください。
脳内にきのこが生えること、間違いなしですよ。




