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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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173/259

2025.9.7 ハードボイルドどうでしょう

時計に目をやれば、時刻は既に正午を回っていた。


久しぶりに、寝坊をしてしまったらしい。

週末はunhappyなトラブル続きだったから、気が張っていたのだろう。


だが、それは言い訳にはならない。

もしここが多魔地区だったら、朝を無事に迎えられたかも怪しいところだ。


(土地のせいか、トシのせいか……)


苦笑せずにはいられない。



あの頃は、研ぎ澄まされていた。

体が寝ている時でさえ、頭のどこかは覚醒していた。


いつだったか、気配を感じて飛び起きてみると、

枕元に猫ほどの大きさのナメクジが這いずり回っていたことがあった。


――タマオオナメクジ


やつらは、寝ている人間の顔に覆いかぶさって窒息させると、

そのまま卵を産み付けるのだ。


俺は慌てずに一服してから、短くなった煙草をヌメヌメ野郎に押し当てた。


キュイイイイイイイ!


かん高い鳴き声を上げてひっくり返ったそいつをつまみ上げ、

窓から外に投げ捨てる。


なんてことはない。

この程度、多魔地区では日常茶飯事だ。




ドブに浸かったクソみたいな毎日。

けれど、あの頃は誇り高く生きていた。生が実感できた。


それに引き換え、現在いまと来たらどうだ。

牙を失いつつあることを感じて、たまらなく不安な気持ちになる。

一度犬に成り下がれば、もう二度と狼には戻れない。


(それでいいのか?)


「――ここは神奈川県。少なくとも、人類のテリトリーだわ。

 多魔地区のことなんて、もういい加減に忘れちゃいなさいよ」


そう言ってくれた彼女は、もういない。


いや――

そんなもの、初めから存在しなかったのかもしれない。




よろよろと起き上がり、冷蔵庫を開け、

気の抜けたCokeをラッパ飲みしてから、中を見回す。


果てなく広がる不毛地帯。


「ようこそディストピアへ! ようこそディストピアへ!」


そんな産業ロックのフレーズが延々とリフレインする。

惰弱な歌詞は好きになれないが、メロディーだけはいいので、

こんな時、ついつい口ずさんでしまう。


「ようこそディストピアへ! ようこそディストピアへ!」


やがて、豆腐がワンパックだけ見つかった。

それでも、今の俺には十分すぎる。


豆腐を器に移してから、蕎麦つゆとゴマ油、唐辛子を振りかける。

あとは、電子レンジで温めるだけ。

もし揚げ玉でもあれば、足してみるといい。


寝起きの腹に注ぎ込まれたカフェインとタンパク質が、急激に頭脳を覚醒させる。


さあ、現実と向き合う時間だ。

お前がずっと目を背けてきた現実と……



                § § §




やっべえ、もうこんな時間なのに、

「チラシの裏の裏には書けない」の今日公開する分、一行も書けてないよぅ……


ハードボイルドを気取っている場合じゃないのよ。

わかる? けっこうピンチなんだよ!?


……しょうがない、さっき垂れ流したハードボイル風のサムシング、

そのまま載っけちゃうか。


落とすよりはずっといいよね。

うん、そうしよう。


【冒頭に戻る】

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