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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.7.25 バカと目薬の今昔物語 ②

 あれは、私が中学生の頃のこと――

 同じクラスに、ユージ(あくまで仮名)という男子がいました。


 ユージはバカでした。


 さらには、反骨精神にあふれ、行動力のあるバカでした。

 もう手に負えません。


 そのバカが突然、バンドを組むと言い出したのです。

 まあ、当時はバンドブームでしたから、メンバーだけはどうにか集まった。

 けれど、楽器はそうはいきません。


 ユージは、なんとか自分の分のギターだけは調達してきたのですが、他のメンバーは、もちろん楽器なんて持っておりませんでした(※1)。


 するとユージは、さっそく持ち前の行動力を発揮。本家(地元の古い農家)の蔵にしまわれていた大正琴と木魚を引っ張り出してきて、それをベースとドラムの代わりにすると宣言したのです。


 バンドの方向性が一瞬にして迷子になったことに、メンバーは動揺を隠せません。

 けれどリーダーはそんなこと気にもせず、「初回公演はどこでやろうかな。やっぱ公民館貸し切りかな」などと前しか見ていない様子。

 

 そんな暗雲立ち込めるスタートではありましたが、とにもかくにも、ハードロックバンド「ツェッペ・レッドリン(※2)」は、第一歩を踏み出したのであります。


 ……まあ、次の一歩を踏み出すことはなかったんですけどね。


 一週間後、蔵を荒らしたことが本家の爺様にバレてしまい、大正琴ベース木魚ドラムが没収されてしまったのです。

 さらには、バンド結成の動機が、

「ユージが惚れていた大学生のお姉さんがレッドツェッペリンが好きだったから」

 という身も蓋もないものだったことが判明。


 なんとなく微妙な雰囲気になって、中学生バンド「ツェッペ・レッドリン」は、

一ヶ月も経たないうちに空中分解したのでした。


 どんどはれ。



                § § §



 さて、それからしばらくしたある日の昼休み――

 教室でまどろむ私のもとに、ユージがやってきました。


「二階から目薬って言葉が、あるじゃんよ」

「あ……、うん」

「あれはさ、“不可能”ってことを例えたことわざじゃんよ」

「まあ、そうかもね」

「だけどよ、試してもみないで“不可能”って決めつけるのはカッコ悪いじゃんよ。

仮にもロックンローラーを目指した者として、ダメだろ、それは」


 ――こうして私は、「二階から目薬」の実験に付き合うことになったのでした。


(続く)

※1……当時の多摩地区では、音楽は豪族のたしなみであった。

よってそこらへんの中坊は、楽器など持っているはずがなかったのである。




※2……【ツェッペ・レッドリン】

みんな、ノッてるか~い!

今日は俺たちのライブに来てくれてありがとう!!

さっそく、ゴキゲンなメンバーを紹介していくぜ~!!!


まずは俺、リーダーの……ユージ(Vo./Gt.)だぜ!

夜露死苦~


ぎゃぎゃぎゃーん(ギターの音)


続いて、ノリは悪いが付き合いだけはいい……アキラ(Ba.)!

夜露死苦~


びよんびよんびよ~ん(大正琴の音)


最後に、自分を北欧の英雄の生まれ変わりと信じているマッドマン……

グスタフ=アドルフ(Dr.)!


ぽくぽくぽく(木魚の音)

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