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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.7.17 光陰矢の如し

【BGM:TRUTH(F1のテーマ)】


 どうにもすっきりしないことがあるのです。


「朝がはやい」


 この「はやい」を漢字にすると「早い」ですよね。

 その一方で――


「川の流れがはやい」


 この「はやい」を漢字にすると「速い」。


「早い」は基準の時間より前にあること。時期やタイミング。

「速い」は物理的なスピードの速さ。


 なんとなくそういった感じで使い分けてきました。


 では、これはどうでしょう?「時が経つのははやい」


 この場合、吉田脳内辞書だと「速い」に変換されるんですよね。

 なんか、時間がF1カーみたいに目の前を「ビュオン!」って流れていく感じ。


 ……で、実際は「速い」と「早い」どちらが正しいのか?

 国語辞典を調べてみたけど、どうにもわからない。


 そうしたら、大修館書店(漢和辞典を発行している出版社)のサイトに、ドンピシャの問答が出ていました。

(https://kanjibunka.com/kanji-faq/old-faq/q0455/)


 要約しますと――

・「早い」を使うことが多い

・「早」は時間的な観点から、「速」はスピードの観点から、

 それぞれ「はやい」ことを表す

・主観的な時間の問題として、「早い」を使っている、と理解するのがよさそう

・「月日が経つのが“速”い」と自信を持って書けるのは、玉手箱を開けた瞬間の

 浦島さんぐらいのもの




 おうおう、拙者は浦島太郎でござるかッ!

 ありおりはべりの乙姫万歳ッ!!


 ……すいません。取り乱しました。

 ただ、理解はしましたよ。

 この場合、「早い」を使うのがトレンディなんですね。


 昔、この大修館書店の辞典で「緑影」という言葉を調べた時、「みどりのかげ」とだけ書いてあって、んなの見ればわかるわッ! と仰け反ったことがあるけど、そのことは突っ込まないでおいてやりますよ。


 それはさておき……。

「時が経つのは矢のようにはやい」だったらどうなのでしょう?

 時間的な観念だけど、矢の「はやさ」は物理的なスピードですよね。


 さっそく、調べてみましょう。


 コトバンク(『精選版 日本国語大辞典』)では、「光陰矢の如し」の解説で、

「月日の過ぎるのは、飛ぶ矢のように早い。月日のたつのが早いことのたとえ」

 と、やはり「早い」を使っています。


 一方で、ChatGPTさんは

「この表現は、“時が流れるスピード”が矢のように速いという意味なので、ここでは“速い”が正しい漢字です」

 と返して来ましたよ。


 ……もうね、何を信じたらいいかわかりません。

 そうして混乱している私を、さらに悩ませるやつがやって来ました。

 

 「おそい」先輩であります。


「夜遅い」

「牛の歩みは遅い」

「時の流れは牛の歩みのように遅い」


 どうしてこっちは使い分けがないんでしょうね?

 昔は「早い」に対応するのが「おそい」、「速い」に対応するのが「遅い」と使い分けていたようなのですが……。


 これ、やっぱり同じように感じた人がいたみたいで、「埼玉県立久喜図書館」がこんなレファレンスの結果を示しています。

(https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000352240&page=ref_view)

 要約しますと――


・「当用漢字音訓表」が改定された際、「晩い→遅い」でよいと考えられたから。


 ということでした。これってつまり、当時の国語の権威の先生たちが、

「『晩い』と『遅い』については、今やもう多くの人が使い分けていないから、公式にも『遅い』で統一してしまってよいでしょう。ふぉふぉふぉ」

 と判断したってことなんですね。


 ほええ――

 なんだろう、近現代における日本の国民性、もっと言えば“せっかちな性分”が垣間見えた気がするのです。

「はやい」にはこだわるけど、「おそい」にはこだわらない。

 麻薬だって、日本で出回っているのはほとんどがアッパー系(覚醒剤みたいにやる気がでるおくすり)ですし……。


 すいません。考えすぎて頭が暴走してきたので、きょうはこれまで。

 ではでは、ごきげんよう。

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