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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.7.13 翔んで災多魔「南武線」

 みなさん、こんにちは。

 今日は、自分がつい数年前まで住んでいたところの話をいたします。

 どうぞよろしくお付き合いくださいませ。



               § § §



 さて、自分の実家は東北なのですけど、育ちは多摩なんですよ。

 東京都と神奈川県のちょうど間あたりにある多魔地区です。


 今では閑静なベッドタウンとして知られていますが、私が子供のころはまったくそんなことは無かった。

 

 見渡す限り山、山、山。

 ちょうど文明の空白地帯だったのです。


 だから、地元のお祭りなんかも土着信仰の要素が非常に強かった。

 例えば、御神輿おみこしってあるじゃないですか。

 わっしょい! わっしょい! って担ぐアレです。

 地元ではその神輿の上にですね、何個もシャレコウベが飾られているんです。


 なんでもそれは、キリスト教の伝道師のものらしいのですよ。

 無謀にも、こんなところにまで布教に来てしまった伴天連たち。

 まさか日本語すら通用しない魔境とも知らずに……。


 まあ、今はもうそんなことはないんですけどね。

 昭和50年代には、さすがに件のシャレコウベもレプリカになりましたし。


 それはさておき……。

 そんなサベージな土地で育った私。

 ガキンチョの時分は、腰蓑こしみのいっちょで野山を駆け巡る生活でした。


 当時、子どもたちの間でブームだったのは、山からイノシシの子供をさらってくることでした。

 もちろん大人たちには内緒です。食べられてしまいますからね。


 え、じゃあ、何のためにさらうのかですって?

 もちろん乗騎にするんです。

 イノシシは大きくなるのが早いのですから、1年も育てればもう十分です。


 イノシシに乗れるようになると、行動範囲がぐっと広くなります。

 そのうち、やんちゃな年上に、悪い遊びに誘われるようになる。


 ――そう、悪名高き「南武線襲撃」です。


 皆様ご存知「南武線(南多摩武装路線)」。

 通勤通学に利用している方も多いでしょう。


 南武線には支線がいくつかあります。

 「浜川崎支線」「尻手短絡線」そして「南多摩貨物線」です。

 

 「南多摩貨物線」は、多魔の山奥で採掘された希少鉱石「非比色金ひひいろかね」を川崎方面に運ぶための路線です。

 諸事情により電線を引くことができないため、車両の動力源は蒸気機関。私たち原住民や危険生物の襲撃に備え、火砲車が機関車の前方に配置されています。


 で、イノシシに乗った子供たちは、シュッポシュッポとやってきた装甲列車に石槍を投げつけるわけです。

 もちろん、装甲で護られた車体にダメージを与えることは難しい。

 しかし、そこは数で押します。

 石槍の一本が、鋼鉄の囲い(ケージ)の隙間をぬって、車両の窓ガラスに突き刺さった次の瞬間――


 ボン! ボンボンボン!


 催涙ガス弾が砲塔から一斉に発射されました。

 蜘蛛の子を散らすように逃げ出す私たち。


 作戦成功です。


 列車が走り去ったら、催涙弾の薬莢を拾い集めます。

 実はこの薬莢、多魔地区では通貨の一つとして流通していたんですね。

 この遊びは、小遣い稼ぎも兼ねていたわけです。

 ちなみに、催涙弾の薬莢一つで、ビールの王冠(これも通貨の一つ)百個分の価値があったのですよ。


 いやあ、懐かしい……。


 私が中学校に上がる頃には「非比色金」が枯渇してしまったため、「南多摩貨物線」はその役割を終えました。

 いまでも、夏草に紛れてしまった線路の跡を見るたびに、膝に直撃した催涙弾の痛みを思い出すのです。






(続く……かもしれない)

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