2025.7.11 残業代が未払につき訴訟も辞さない
時計を見れば23時。
いいかげん仕事を切り上げて帰ろうとした、ちょうどその時……
電話のベルが、鳴りました。
相手もなんとなく見当がつきます。
(いけない! その受話器を取ってはいけない!)
でも、取らないわけにはいかないのです。
「よかったぁ……吉田さんがまだ残っていてくれてよかったぁぁ……(涙声)」
受話器の向こうは、予想通りの人物でした。
こちらから相手に渡す予定のデータ(明日いっぱいが〆切)が、今どうしても必要になったとのこと。
やっこさんの事情も承知しているので、嫌とは言えません。
さあ、愉快な第二ラウンドの始まりです。
帰ろうと思って落としたシステムを再起動します。
再起動します!
再起動しません……あれ……?
画面に映し出されるノリノリの横文字。
あ、オイラ知ってるよ。
けっこうめんどくさいやつだ、コレ。
よりにもよってこんな時にッ……!!
もう、冷や汗が止まりません。
―――しかし、私の運は尽きていなかったようです。
ちょうどそこに、システム担当の後輩Sさんが入ってきたではありませんか。
渡りに船と声をかけると、
「すみません! ちょっと前にイベント会場に不審者が侵入して、警備担当と揉めているそうなんです。その対応が最優先なので! 本当にすみません!」
そうでした。彼は今、とあるイベントの責任者なのでした。
しょうがねえ、システムエラーは自分でなんとかするしかありません。
§ § §
依然、システム復旧に悪戦苦闘しているワタクシ。
すると、ヨメさんが部屋に入ってきたではありませんか!
(アイエエエ! ヨメ!? ヨメナンデ!?)
……冷静になって考えてみると、今日は在宅勤務でした。
ヨメさんがここにいてもなんら不思議はありません。
「ねえねえ、ちょっといい? 古いアルバムが出てきたんだよ」
彼女は私の横でアルバムをめくりながら、思い出を語り始めます。
「あの時二人で見たワイキキビーチの夕暮れ、綺麗だったよねぇ……」
ワイキキビーチ? なんだそりゃ?
「ひどい! 忘れちゃったの!?」
ああ、ごめん。繁忙期で今ヤバいんだ。
落ち着いたらまた二人で行こうね、ワイキキ……
「もう知らない!」
泣きながら部屋から出て行く彼女。
呆然と立ち尽くす私。
【BGM:熱いさよなら】
楽しげに ほほえんだ ふたりの思い出写真
目の前の 灰皿で そっと燃やしましょうね
悲しいね いつだって 恋のおわりはブルース
飲みかわす グラスカクテルも 今はほろ苦い
五輪真弓、最高ですよね……。
――って、おかしい。何かがおかしい。
まずおかしいのは後輩S。
システム担当とイベントの責任者を兼務するわけないじゃないですか。
弊社がいくらブ●ックだと言っても、それではさすがに二度死ねます。
誰でも命は一つだけ。大事にしましょう。
さらに、今って7月ですよね。そのイベントって毎年1月ですよ。
おまけに……
自分にはヨメなどいねえ!
これまでも、これからもな!!
――そこで、ぱっと目が覚めました。
時計を見れば午前4時。
夢の中で、半日分くらい働いてしまいました。
もうとっくに辞めた職場に、残業代を請求してもよろしいでしょうか(泣)。
どんどはれ。




