2025.7.2 『人くいお母さん』 その③
みなさま、こんにちは。
カフェルン族の民話『人くいお母さん』、完結篇であります。
§ § §
地図上から村をひとつ消滅させた人くいお母さん。
戦利品の斧を片手に家路につきます。
さて、おなかがいっぱいになって眠たくなったお母さんは、早く家に帰りたかったので、近道を使うことにしました。
おや? また“近道”が出てきましたね。
ちょっとネタバレになるのですが、この『人くいお母さん』というお話においては、「近道を使ったものはロクな目に合わない」という法則があります。
何かのメタファーでしょうか?
「普段使われていない道には、使われないだけの理由がある」
「結果だけを求めていると人は近道をしたがるものだ………近道した時、真実を見失うかもしれない」
まあ、例の語り部がそこまで考えていたかはわかりませんが……。
閑話休題。
そんなお母さんの前に、金色の大きな鳥が近づいてきます。
【ゆっくりと わを えがきながら】と描写されているので、おそらくは猛禽類でしょう。
【ここは、わたしの たにだ。かってに とおっては ならん】
鳥は、縄張りを主張してお母さんの行方を遮ります。
【とおしておくれ】とお母さん。
しかし、鳥は聞きません。
【いかん。おまえみたいな わるい にんげんは とおさない】
え、人くいお母さんは、【にんげん】なのですか!?
妖怪の類だと勝手に思い込んでいましたが、どうやら一般人みたいです。
そして、お母さんと鳥の問答が始まります。
【わたしは、わるいことを した おぼえなど ない】
【つみもない にんげんを たべて、わるいことを したと おもわないのか】
【あれは わたしの たべものだ。おまえだって いきるためにつみもない 鳥や けものを くうではないか。なにが ちがうと いうんだ】
……まってまってまって。
おそらく小学生低学年向けの絵本に、いきなり重いテーマをぶっこんできやがりましたよ。
これ、お母さんの言うことにも一理あると思うのですが、どうなのでしょう。反論するの難しくないですか? 鳥はいったい、どう答えるのでしょうか?
【すると 鳥は さっと いきなり おりていって、人くいの もっている おのを とりあげ、右の うでを きりおとしました】
ええええ!? まさかの悪・即・斬!?
暴力!? バイオレンスで解決するのかよッ!!!
そのまま、腕をくわえて舞い上がる鳥。
お母さんは叫びます。
【わたしは かえって しゅじんの ごはんのしたくを してやらなくては ならない。うでを かえせ】
【もう、そんな しんぱいは しなくていい】
この鳥、ちょいとハードボイルド過ぎませんかねぇ!?(震え声)
いや、くりかえしますけど、これ、“原文ママ”ですからね。
私が創作しているわけじゃないんですよ。
わざわざ図書館まで行って確認してきましたから、間違いないです。
鳥は、お母さんの命乞いもきかず、そのまま足を落とし、お腹を切り裂きます。
すると、お母さんに食べられた動物たちが飛び出してきます。続いて村の人間たち、最後に子どもたちが【にこにこ わらって】出てきます。
――それから、時が経って、
【にいさんは その むらの しゅうちょうに、いもうとは となりむらの しゅうちょうの およめさんに、なったと いうことです】
めでたしめでたし。
§ § §
みなさま、いかがだったでしょうか。
このエッセイを書くために、改めてこの作品を読み直してみたのですが、いやあ、面白かった。正直、最初に読んだときより楽しめたかもしれません。
生活力がなさそうなお父さんはどうなったんだろうとか、お母さんは本当に死んだのかとか、気になる点はいくつもあるんですよ……けれど、細かいことはいいんです。
おもしろければすべてオッケー!
最近、物語を「上手に書こう」ということばかり考えていたんですよね。
けれど、それってどうなんだろう。逆に、小さくまとまりすぎていたんじゃないかと反省するきっかけになりました。
みなさんも時間があるとき、ちょっと読んでみてはどうでしょう(※)。
――どんどはれ。
※ちなみにこの本、アマゾンではプレミアがついて30,000円とのこと。新品で300,000円なんてサイトも見つかりました。大きめの図書館にはだいたい置いているみたいなので、読むだけならまずはそちらをお勧めいたします。




