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チラシの裏の裏には書けない  作者: 吉田 晶


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2025.6.30 『人くいお母さん』 その①

 『人くいお母さん』という本を御存知でしょうか。


 なんともファンキーでロックなタイトルではありませんか。


 「人食い」ではなく「人くい」とするところが、B級ホラー味が溢れていて素敵なのです。もし、アンソニー・ホプキンズが出演した例の映画のタイトルが「人くいおいしゃさん」だったら、あんなにヒットしなかっただろうなあと思わずにはいられません。続編の「人くいおいしゃさん イタリアに行く」も、脱力感あふれてグッドですね!


 それはさておき……。

 この『人くいお母さん』、表紙もまたファンキーなんですよ。

 ぜひ、検索してみてください。


 ……ね、すごいでしょう?

 

 “人くいお母さん”と思しき人物が、目から赤い怪光線を放っている。

 某吸血鬼の吸血破壊光線アッサーシーンを彷彿とさせますが、この母さん、作中では別に光線技を使ったりはしません。

 まさしく「ビーム撃つ撃つ詐欺」の典型例であると言えましょう。


 みうらじゅん氏とか、カーツさとう氏とかが大喜びしそうな本作品。こんな反社会的なタイトルにもかかわらず子供向けの絵本(※)なのです。

 だから、小学校の図書室に置いてあっても不思議ではなく、幼児吉田は、星に導かれるようにこれを手に取ってしまったのであります。


 ――読み終わったあとの衝撃は、凄まじいものでした。




                § § §



 『人くいお母さん』は、アフリカの「カフェルン族」に伝わる民話です。

 よって、冒頭からパリダカ並みにアクセル全開です。


 心の準備はいいですか? 行きますよ?


【子どもたちの お母さんは 人くいだったので、お父さんは ふたりが うまれると すぐ、おじいさんの ところに あずけました】


 どうしてお母さんが「人くい」なのか、作中ではこれっぽっちも言及されません。ちなみにお父さんが、彼女を「人くい」と知って結婚したのかも不明です。

 もし知っていたなら、お父さんもとんだサイコ野郎なのですが……


 さて、そんなお母さんの子どもたち(息子と娘)は、両親が恋しくなって、会いに行くんですね。

 ただ、いきなりお母さんに会うのは危険極まりないため、彼女が猟に行っている隙をみて、まずはお父さんとだけコンタクトを取ることに成功します。

 再会を喜ぶお父さん。しかし、すぐにもお母さんが帰ってきそうなので、お父さんは大急ぎで子どもたちを隠すのでした。


【そうしているところに、大きな おとを させて、お母さんがかえってきました。カモシカと にんげんを 一ぴきずつ、ぶらさげています】


 人間をさりげなく【一ぴき】でカウントするところが、漫画『彼岸島』を彷彿とさせますね。ふふふ。

 あ、当時は『彼岸島』なんてまだ連載していなかったので、この表現はそうとう怖かったのです。


 さてさて、そんなカニバルマザー、【おいしそうな 子どもの においが する】と言って、子どもたちをあっさり見つけ出してしまいます。


【なんだ、おまえたちか。どうして かえってきたんだ。しょうがないなあ。わたしが 人くいだって いうことを、わすれたのかい。かえってきたら、わたしの 子どもだって、たべずにはいられないんだよ――】


 まるでダイエット中に、冷蔵庫の死角にチョコパイを見つけてしまった時のようなノリで言うお母さん。

 子どもたち大ピンチ。しかしお母さんはこう続けます――いまはカモシカと【にんげん】がいるから、それを食べてからお前たちを食べることにする、と。


 そうしてお母さんは()()を食べ終えると、昼寝をはじめるのでした。



 さてさて……。

 この先、話はさらに混迷を深めるのですが、それはまた次回。


 ではでは、ごきげんよう。

※『人くいお母さん―アフリカの民話1 (母と子の図書室)』

出版社 : 太平出版社

発売日 : 1982/7/1

著:立石巌 

絵:粟津潔

ISBN-10 : 4803118337

ISBN-13 : 978-4803118339

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