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目覚め



朝日は差し込まない

家の窓の向かいにはアパートが建って、通路は人が行き来するので、遮光カーテンはもう5年は開けてないだろう


体を起こすとホコリと抜け毛が手にへばりつく。寝ているのはチラシや電気代料金の督促、保険の封筒の上である。


ここに住み始めて3年分のごみや荷物が床を埋め尽くし、その上で寝ているわけだ。布団は窓のふもとの床に今と敷いてあるはずだ。


スマホをダンボールの脇から取り出して時間を確認する。15時30分。昨日は0時まで2交代制の機械オペレーターをしていた。来週からは朝の交代になる。明日は日曜で休みだが行く場所もない。

一人で行って楽しい場所でもあるのだろうか。

別に欲しいものもないのに日曜日はどこかに行ってしまおうと土日を勇気にして働いているのに毎回、土日になると何もできないことを知っている。この町は広いのに1人のおじさんが入っていい場所を探そうと思うと骨が折れるはずだ。どこも光り輝いて僕を拒絶している。


折角なのでどこかに行こうと重い腰を上げ、しかしお金が使えないので近くの古本屋で興味もなくなってしまった本を手にとっては値段を確認し、2,3冊選んでレジに持っていく。


この習慣は大学生からできたものだ。その時の夢は何だっただろうか。自分の能力を高める技術を身につけて、社会から必要とされる人間になるとか言ってたような…


実際社会に出てみて、世間からの期待に応えられるようたわけだが人よりポンコツだったから上手くいかなかった。良いものを作る、これは”とにかく人より早く最短で”という文字がついて回っていて、これを付け加えると僕にとってはただの拷問でしか無かった。



しかし、工学系の大学を出たプライドがあったから僕は製造業から離れられなかった。


何が楽しいというのか、仕事仲間はいない

仕事の報告や、いつものコンビニの店員との事務的な会話を除くともう2年は誰とも話をしていない。おそらく僕の声が出なくなっても困りはしないだろう。


結婚はもう諦めた。僕だって分かる。こんなチビで禿げかかって自信のなさそうなやつと結婚して幸せにならないだろうと。誰だってお断りのはずだ。僕の存在価値はもはやハエにエサを与えていることと、コンデンサ製造の機械のお世話をしているだけである。


僕が猫を飼いたいというと、保護団体にかわいそうだからやめろと言われるだろうし、だいたいこの部屋では動物が飼えない。しかし下の階の住人は夜に猿みたいな奇声を発している。あれに対処できないのに猫がだめだというのは余りにもバカらしいだろう。


そうこうしている内に時間は16時になっていた。

今日はどこに行こうか。そして分かりきった結論にたどり着く。古本屋までの道をブラブラと歩く。近くを女子中学生が二人自転車で通り抜けた。ヒラヒラとスカートが動き、それはまだこの町の大部分の拒絶を知らない清潔さを放っていた。


なんとなく喪失感を感じながら店に入った。

フィクションが無駄に輝きを持って並べられている。それに対してつまらない現実を示す本は端のほうで音にならない叫びを発している。


僕を見つけてと言っている。


僕はこれが言いたかったのだ。僕だって愛されたい。誰かに見つけて欲しいのだと。

世界は広いはずなのに僕のいられる場所は限りなく狭い。そんなものぶち壊してしまおう


僕は心から叫びを上げている本を手にとってレジに行った。


この瞬間ポッと何かが変わる気配がした。


お金を取り出そうとした時、強い視線を感じた。目を上げるとレジの眼鏡をかけたおじさんは僕の目を直視している、死んだ目をして。


もう戻れないよ サヨナラ


一瞬時間が止まり、僕はおじさんの目をずっと見続けることしかできなかった。背中には冷や汗が走る。轟々と風で扉がたたかれたのを合図に時間が進み始めた。何事もなかったかのように、お釣りです。と言われお釣りとレシートをポケットに突っ込んで慌てて店を出た。


捜索願

29歳 男

小柄160センチ 痩せ型


××県××市oo町


情報

家族との関係、友人関係はいずれも希薄。勤める会社からの連絡があったが応答がなかった。欠勤なく真面目だったため、不自然に思い、家族に連絡を取る。

本人は家族との連絡も2年間取っておらず情報は少ない。

捜索願は本人の母親から提出された。



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