君は何になるべきか
幸せって妥協の先にありますよね
おじいさんに事の経緯を話し終わったあとしばらく沈黙が続いた。
私を裁いてくれ、仕事のできないやつはいらない、そして私がこうなったのも自分の行動が原因である。社会的に私は間違っているのだろう。でも私はどうなるんだ。だから私の意思を通すためには、理屈でなんとかならないんだ。
しょうがないじゃないか。とつぶやいていた。これは自己表現だ。私の意見を皆に知らしめるためのだ。
おじいさんはしばらく沈黙を守ったあと、私にいった。
あなたはよく頑張った。もう十分なんだ。もう頑張らなくてもいい。俺にはあなたを裁く資格もないしあなたが正しいのかどうかも分からない。
だけど一つ言えることはあなたはまだ子供だと言うことだよ。
自立していても子供のままなんだ。子供だといけないと言っているわけじゃないよ。しかし、このままだと生きていくのに苦労するだろうってことだけだ。大人になるためには、重要な資格も検定も必要ないんだ。
ただ、自分の能力を知ってそれを活かせる場所にいることなんだ。つまり、立場や居場所が君を大人にするんだよ。
誰しも大人になる素質を持ち合わせている。
そして誰しも大人になれない素質を持ち合わせているんだ。
君は、君が大人になれる場所に身を置くべきなんだよ。
それは、作家や陶芸家や法律家かもしれないし、私みたいな清掃員かも知れない。
君はもう1番大変な時期を味わった。きみはまだ若い。
おじいさんは私の肩を抱き寄せてくれた。
努力すればなんとかなると思っていたが、そうでない社会に気づき受け止めるのは辛かった。しかし肩の荷が降りた気がした。もっと早く気づくべきだったのかもな。
外は燃えるようなきれいな夕日に照らされていた。
おじさんはもう手に火が付きそうなほど短くなったタバコを鉄板の上に磨り潰した。
もうこんな時間か、そろそろ清掃しないとバレてしまうな。
じゃあ幸運を祈っているよ。
おじさんは私にそう言うと階段のドアを開けて中に入った。
私は夕日が沈むのを見届けたあと、外階段を足元に気をつけながら降りていった。
そして私は無職になった。