殻は語らない
殴る人ってどんな気持ちだと思いますか
僕は楽をして生きないことにした。
お前また楽しようとしてるだろ
オフィスビルは15階建て、そしてその隣のカエデ銀行本社も15階建てである。それは地盤が中州で弱いため、それ以上の高さにできないからである。
高さは同じでもカエデ銀行とここの扱いは天と地の差がある。
例えばここは最上階オフィスだか、日が当たることは決してない。銀行がすべての日光を遮るためである。
私は今部長を殴っている。押し倒したその胴にまたがって、拳を目、鼻、頬に打ちつけている。
なんだ、こんなものだったのか
私を苦しめてきたやつの体は細く脆かったようだ
いくら拳を打ちつけてもすっきりしない。
それは私は今、殻を殴っているからだ。本当に殴りたいのはその中身なのに。
私は途方に暮れた。すぐに警備員が来ると、もぬけの殻の私をそれから引きずり出した。警備員は乱暴にそして注意深く私の腕を後ろに回したが、生力を失った私にはそれは意味のないことであった。1時間後私は2年通い続けていたオフィスから追い出された。いや、開放された。
私が誇りを持って働いていたオフィスはビルの最上階にあったが、私はエレベーターではなく、非常階段から降りていた。エレベーターに乗ると、知っている人と遭いそうで嫌だったからだ。
8階の踊場だったのだろうか、外の非常階段に通じるドアが開いていて、キラキラと日光がカーテンを作っていた。なるほど、ビルのすき間から、ここにはなんとか日光が入るようだ。
外に出てみると、いつもとはどこか違うきれいな風景が見えた。いや、本当はいつもオフィスから見るコンクリートとアスファルトの目立つ灰色の風景と何ら変わらないのだが、これを作っている人々の、一人ひとりの物語が見えて、なぜかこの街が美しく見えた。
その風景から目が話せなかった。