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第三十七矢 起死回生

「ははぁ~壮観だねえ!」


 北条綱成が嬉しそうに眺める先には、山内上杉らの大軍が城を包囲している姿があった。

 しかし、大軍らは一向に攻めに来ない。


「どうやら、上杉どもも今すぐに攻め落とすってわけじゃねえようだな。」


 すると、近くにいた河越城の兵が不安そうにしているのに綱成は気づいた。


(そりゃそうか。こんな大軍目にしたら俺みたいな戦好きはともかく、普通はビビるわな。)


「ま、河越は並の城よりも堅守だ。そう簡単には落ちはしねえし、俺が落とさせねーよ。」


 綱成がそう言い放つと、兵らは幾ばくか表情がやわらいだ。綱成の言葉には人を安心させる何かがあった。

 綱成はそれを確認すると、


「さてさて、氏康が来るまで踏ん張るとするか!」


 背伸びをしてさっそく籠城体制の強化に動き出した。


 一方、今川軍は北条軍の撤退後、さらに東へと進軍していた。


「しかし、わしも年老いたのう。」


 そんな中、朝比奈泰能はしみじみと老いを感じていた。


「まだ老け込む歳ではなかろう。」


 隣にいた泰能の親友である三浦範高が泰能に言う。


「いやはや、先程の戦で若僧にこうも苦戦してはいかぬわ。」


 泰能は先の戦で死闘を演じた山角定吉につけられた傷を範高に見せる。


「それだけ傷ついても元気があるのだから大丈夫じゃよ。」


 範高がそう言うと、


「確かに…そういう考え方もできるの!」


 泰能はなるほどという顔をした。


 一方、北条軍は平坦な野原が広がる狐橋で今川・武田軍を待ち構えていた。


 その北条軍本陣では氏康が一つ、この圧倒的劣勢を(くつがえ)す起死回生の策を思いついていた。


「もう、やるしか手はないか…」


 氏康は覚悟を決めた。


 そして今川・武田軍が狐橋に到着して、今まさにこの地で今川と北条の決戦が始まろうとしていた。


「突撃!!!」


 最初に仕掛けたのは今川軍だった。

 連戦連勝の今川軍は勢いよく突撃する。

 一方で絶対に負けられない北条兵らも必死の形相を浮かべて、勢いづく今川軍に対抗する。

 しかし、武田軍の存在や元々の兵力差もあってか、北条軍は早くも劣勢に(おちい)った。


 そんな中、俺はかすかに北条軍に違和感を抱いていた。

 俺はそばにいる吉田氏好に聞く。


「ねえ氏ちゃん、ちょっと変じゃない?」

「変、といいますと?」

「北条軍が前より(もろ)い気がする。前はもっとこう粘り強さがあったんだけど…」

「では兵を一旦下げまするか?」

「うーん…この勢いに水を差したら士気にも関わるし、俺の勘で決めるってのも…」


 俺は少しの間悩んだが、判断を下した。


「まあ悩んでいても仕方がなし。このまま押し切りましょか。」


 俺は一抹の不安を覚えながらも、一気にかたを着けようと猛攻に出た。本陣も前へ前へと出る。


 また、同様の違和感は晴信も感じていた。


(北条もあとがないはずだというのに、なぜ氏康は攻めに出ない。何か策があるのか…?)


「氏康、おぬしは何をする気じゃ…」


 晴信は氏康の考えに見当がつかないまま、遙か前方にいる氏康に問いかけた。


 そしてそのまま形成が逆転することなく、今川軍の猛攻が北条軍の守りを破った。


 これでこの戦の勝敗は決した。

 今川・武田軍の誰もがそう思ったその時、


「退け!」


 氏康が突如声を張り上げ命じると、一斉に前線を戦っていた兵らが退いて、後方にいた兵たちを率いて氏康が凄まじい勢いで突撃してきた。


「狙うは義元の首のみ!」


 そんなことを予想だにしていなかった今川軍は氏康の突撃に対応などできるはずがなく、奇襲攻撃と等しい損害を(こうむ)る形になってしまった。

 混乱した今川軍の前線を氏康はどんどん突き進み、氏康は特に手薄になっていた今川軍右翼に攻め込んで今川軍本陣にいる今川義元の首のみを狙う。


 一連のあっという間の出来事に今川・武田軍ともに後手に回ってしまった。


「なるほど…我らが油断するよう仕向けたのか。してやられたわ…!」


 晴信は眉間にしわを寄せ、急ぎ今川軍へ救援を送るも、それ以上に氏康の動きが早く間に合わない。

 また、前線に出ようとしていた今川軍本陣でも氏康らの姿がだんだんと近づいてくるのが確認できた。


「殿!お下がりください!」


 今川軍本陣は氏康から距離を取ろうと後退し始める。


 今川・武田軍に生じた、たった一瞬の油断。

 その油断に氏康はつけ込んだのだ。


 今川軍優勢から一転。

 北条軍の逆襲が始まった。

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