第二十四矢 デート
「うーん…」
俺は自分の部屋で考え込んでいた。
ここ数日、婚儀を済ませてからというもの多恵の元気がないような気がするのだ。
(元気づけるかつ仲を深めるには…)
俺はふと思いついた。
「そうだ、デートしよう!」
多恵は部屋の襖を開けて、庭園を見ていた。
(見知らぬ土地、見知らぬ人…)
「離れると故郷が愛おしく感じて、寂しい気持ちになるのう…」
多恵がそう呟いていると、ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。
音が止むと、多恵の夫が姿を現した。
「いたいた。多恵、今ひま?」
「はい。ひまではございますが…」
「じゃあさ、一緒に城下町に行かない?」
「え?」
と、いうことで俺たちは駿府館の城下町でデートをすることにした。もちろん、氏好や小姓たちの護衛付きである。
城下町へ出てすぐに多恵は目を輝かせる。
「嫁入りの際に輿から見ておりましたが、やはり駿府の城下町は華やかでございますなあ。」
「だよねー、なんか京都と雰囲気が似てるよね。」
「殿は京の都に行ったことがあるのですか。」
「うん、というか何年かくらい京都に住んでたよ。」
すると、多恵は興味津々な様子で俺に聞く。
「なんと…!京はどのようなところなのですか?ぜひ、私に教えてくださいませ。」
「京都はなんというか……」
俺が多恵に京都の華やかさを教えている後ろで、
「京の都…いつか行ってみたいのう。」
と、犬丸がボソッと呟いた。藤三郎はその呟きにすぐさま反応する。
「ふん、わしは殿が治める駿府の城下町で充分じゃ。殿が治めているだけあって駿府は今や京にも劣らぬ。」
「可哀想に。どうやらおぬしには殿が駿府で留まるようなお方だと見えているらしい。」
「なっ…!そうは言っておらぬ!」
「わしにはそう聞こえたけどのう。」
両者が喧嘩を始めようとした時、二人の頭から拳骨が振り下ろされた。
「「痛っ!!」」
拳骨をしたのは吉田氏好だった。
「喧嘩は後で好きにやるがよい。今は殿の護衛中じゃ。」
氏好は二人をそう怒りを抑えて叱ったのだが、二人にはそれがより怖く見えた。
俺が京都の様子について話し終えると、多恵は感嘆していた。
「うらやましゅうございます。私は京どころか今まで館から外に出たことがなく、こうして町を歩くということが初めてなのです。」
「そっか。なら今日はとことん楽しもうね。」
「はい…!」
少し俺たちが歩くと、多恵がくいくいと俺の裾を引っ張った。
「なんか行きたいとこあった?」
「はい。殿、ここに寄りとうございます。」
「うん、わかった。」
俺たち一行は着物や絹織物が売っている呉服屋に入っていった。
呉服屋内に入ると、美しい着物や絹織物がたくさん売ってあった。
「まあ、どれも美しゅうございますなあ。」
多恵がいろいろな品を物色していると、ほんのりと赤く花々の模様が彩られた絹織物に目が止まった。
「綺麗だのう…」
多恵がその絹織物を手に取って惹かれたように眺めている。
「それ気に入った?買おっか?」
「いいのですか?ですがやはり…」
「遠慮しなくてもいいよ。俺たち夫婦なんだし。」
「では、お言葉に甘えて…」
俺たちはその絹織物を購入した。
その後と俺たちは以前に訪れた饅頭屋へと向かった。
「おっ、あったあった。やっぱ城下町に来たならここの饅頭食べないと。」
饅頭を買いにいった犬丸と藤三郎が戻ってきた。
「ほい。」
俺が多恵に饅頭を渡した。
「これすごくおいしいから食べてみ。」
饅頭を渡された多恵は恐る恐る饅頭を一口食べてみる。
「とってもおいしゅうございます…!」
多恵は駿府館に来てから一番の笑顔を俺に向けてた。俺はその可愛さにやられて、耳を真っ赤にする。
「それは、よかった。なんかずっと元気なかったから…」
(もしや私を元気づけるために…)
多恵は今回のデートの意図に気づいた。
「殿、今日は私を外に連れ出してくれてありがとうございまする。多恵は殿の妻となり幸せでございます。」
「俺の方こそ、多恵の夫になれて幸せだよ。」
この日のことは、多恵にとっても義元にとっても一生忘れられない思い出になった。
デートを無事に終えて駿府館へと帰ると、何やら駿府館が慌ただしくなっていた。
(どうしたんだろ。)
「あっ氏貞さん。」
俺はちょうど目の前を通った瀬名氏貞を呼び止める。氏貞は深刻そうな顔をしている。
「何かあったの?」
氏貞は重い口を開いた。
「北条が同盟を破棄し、我らの領土に侵攻してき申した!」
「…………え?マジで?」




