第二十三矢 武田の娘
武田との交渉から二ヶ月ほど過ぎた頃、
「なんじゃ?あの大行列は…」
駿府近くの畑で耕していた農民たちは道を通る大行列に目が釘付けになっていた。大行列の中心には豪華な輿が担がれていた。
やがて、その大行列は駿府館の城下町へと入っていった。
(ここが駿府…)
輿の中から外の様子を覗う一人の女性がいた。
この女性こそが、この度の同盟によって義元に嫁ぐことになった武田信虎の娘・多恵姫であった。
(噂では聞いてはおったが想像以上の華やかさじゃ。)
多恵が駿府館の城下町に感嘆していると、駿府館が前方に見えてきた。
「躑躅ヶ崎館も雅じゃが、駿府館も負けておらぬなあ。」
多恵は駿府館を見て、自分が駿府まで嫁ぎにきたのだと改めて感じていた。
「どうかお優しい方でありますように…!」
多恵はそんな願いをしながら、駿府館へと向かっていた。
一方で、俺は駿府館の門前で多恵が来るのを待っていた。吉田氏好はそんな俺に言う。
「なにも殿自らが姫の出迎えをしなくとも良いのですよ。」
「夫婦円満でやっていくためにも、最初が肝心かなと思いまして。」
俺は自分なりの意見を氏好に伝える。
「てか、俺結婚すんのか。実感ないな~。」
俺が今さらそんなことを呟いていると、多恵を乗せた輿は駿府館の門前へと到着した。
「姫、駿府館へ着きました。」
多恵は輿から降りると、目の前には出迎えの人々の中でもひときわ若い、多恵と同い年くらいの青年が立っていた。
(もしや、この方が義元殿…?)
(おお、めっちゃ可愛い子が出てきた…!)
一方、俺が多恵の美人ぶりに立ち尽くしていると、氏好が俺に呼びかける。
「殿、殿!」
俺はハッと我に返り、多恵に自己紹介をする。
「俺があなたの夫になる今川義元です。これからよろしくお願いします。」
(あっやはりそうでしたのね。)
多恵は目の前にいる青年が義元だと分かると頭を下げた。
「はい、これからよろしくお願いいたしまする。」
「じゃあ、部屋まで案内しますんでついてきてください。」
義元はカチコチになって多恵を多恵の部屋に案内し始める。
(わざわざ私を出迎えにきてくださるなんて…優しそうなお方でよかった…)
案内する義元の後ろで、多恵はホッとひとまず胸をなで下ろした。
「いや~、しっかしすごい豪華な贈り物、ご苦労さまです。」
多恵を部屋まで案内し終えた俺は武田家の家臣たちを大広間まで案内して、信虎から贈られてきた豪華絢爛な婚礼荷物を一つ一つ見ていた。
「どれもすごいけど、特にこの刀なんかビビってくるものがあるね…!」
俺はその贈り物の一つである立派な刀を手に取った。すると、武田の家臣がその刀について説明してくれた。
「お目が高い。その刀は南北朝時代に名を馳せた刀工・左文字殿の一品でございます。」
「へえ、この刀名前とかあるの?」
「前の持ち主の名から宗三左文字と呼ばれておりました。」
「じゃあ、これからはこの刀は義元左文字っていう名前になるわけだ。」
俺は義元左文字を気に入り自分の愛刀として自らの腰に差した。
翌日、義元と多恵の婚儀が盛大に行われた。
歴史ある今川家の人脈は広く、同盟を結ぶ武田はもちろんのこと朝廷や足利将軍家の方々や公家まで多数の人が参列しにきてくれた。
その中には義元を一目見ようと参列した武田晴信の姿もあった。
(あれが今川義元か…なるほど、ここの誰とも違う異質さがあるな。)
晴信は一武将として、義元の技量がどれほどかと見定めていた。
今川家臣団はというと、瀬名氏貞や寿桂尼はどこか嬉しそうな表情を浮かべており、朝比奈泰能に至っては大号泣していて、三浦範高が横でなだめていた。
「お似合いのお二人じゃ…!」
義元の小姓である犬丸と藤三郎は義元と多恵を憧憬の目で見ていた。
そして、崇孚は二人をにこやかに見守っていた。
そうして、婚儀は順調に進んでいき俺たちの婚儀は終わった。




