第二十矢 蹴鞠大会
その日、駿府館の蹴鞠を行う場所―鞠場は多くの人でにぎわっていた。
駿府館の門の前に立っている看板には【蹴鞠大会開催!】と書かれている。
「子供たちは子供の部、民衆の皆さんは一般の部、兵や家臣さんは武士の部で参加してくださーい。」
人がだいたい集まってきたところで俺はルール説明を始める。
「組み分けも終わったので、ルールを説明しまーす。ルールは勝ち抜き戦です。まず予選では、それぞれ四つの組に分かれて時間内で鞠を蹴った回数を競ってもらいます。その組の中で一番になった人が決勝進出です。鞠を地面に落としたら失格です。優勝した人には褒美あげますんで頑張ってください!」
俺は喋り終えると、座布団の上にドスッと座った。そばには吉田氏好が控えている。
すると、先ほどまで家族と談話していた犬丸と藤三郎が俺のところまで来て宣言してきた。
「殿!それがしが殿の小姓として必ずや優勝いたします!」
「いや、それがしが優勝を殿に届けまする!」
犬丸と藤三郎はそう言うと、互いに火花を散らせていた。
「バチバチだね~、二人共頑張ってね!」
「はっ!!ありがたきお言葉でございます!」
犬丸と藤三郎は同時に頭を下げて、意気揚々と優勝目指して子供の部の予選に臨んだ。それが先程のこと。
そして現在。予選を終えて、犬丸と藤三郎はトボトボと俺のところに歩いてきた。
「すみませぬ…敗退してしまいました。」
藤三郎がしょんぼりとしながら結果を報告した。
「それがしもです…」
犬丸も藤三郎に続いて報告した。
「二人共頑張ってたからそんなに落ち込まないで大丈夫。次に活かしましょ次に。」
二人は“次“という言葉を聞いて、意を新たにする。
「次までには蹴鞠の腕を鍛え、優勝いたしまする…!」
「右に同じでございます…!」
生まれて初めて犬丸と藤三郎の考えが一致した瞬間であった。
その後、順調に子供の部と一般の部の優勝者が決まって、いよいよ武士の部が始まろうとしていた。
「氏ちゃん、じゃあ行ってくるねー」
「殿もお出になられるのですか?」
「そうだよ。俺も蹴鞠やりたいもん。」
俺の組にはすごくかしこまった服装で蹴鞠に臨む朝比奈泰能がいた。
「泰能さん服装からめちゃめちゃ気合い入ってますねー」
「蹴鞠は幼き頃から好きでして…ん?ここにおられるということは殿も参加するのですか?」
「うん、そうだよ。今日は無礼講ってことで、お互い手加減なしで戦お。」
「わかり申した。全力で戦いまする!」
その結果、決勝に進出したのは岡部親綱、朝比奈泰能、三浦範高、太原崇孚の四人だった。
「泰能さん強かったなあー」
俺は予選敗退したので、自らの席に戻って武士の部の決勝戦を見届ける。
決勝戦は四人で鞠を回し続けて、最後まで鞠を地面に落とさなかった人が優勝となる。
(殿の分までわしが優勝せねば…!)
泰能がそう闘志を燃やしている傍ら、
(蹴鞠とはいえ勝負は勝負。優勝あるのみ!)
親綱も闘志を燃やしていた。
(犬丸、千丸、父は優勝するぞ…!)
範高もまた、自分の息子である犬丸とまだ幼い千丸に格好いい姿を見せようと優勝に意欲満々である。
他方、崇孚はニコニコと笑みを浮かべていて、純粋に蹴鞠大会を楽しんでいるようだった。
いよいよ決勝戦が始まった。
各組を勝ち抜いてきただけあり、全員それなりに鞠の蹴り方が上手である。
しかし、当然だが勝負事には必ず勝ち負けがつく。
「落としてしまった。拙僧はこれで脱落か。」
最初に脱落したのは崇孚だった。だが、悔しがることはなく、むしろ満足そうにしていた。
次いで脱落したのは親綱。親綱は優勝できなくてとても悔しそうにしていた。
と、いうことで優勝争いは長年今川家を支え続けた二人の争いとなった。
(殿のためにも…)
(我が子たちに格好いい父を見せるためにも…)
((絶対に負けられぬ!!))
両者の思いはぶつかり合い、激闘が続いた。
そして激闘の末に最後に勝ったのは、範高であった。
「犬丸、千丸、父はやったぞー!」
範高はヘトヘトになりながらも年甲斐もなく喜び、妻と息子たちを抱き締めた。
妻や息子たちも父の優勝に喜んでいた。
そうして、大盛況のうちに義元主催の蹴鞠大会は終わったのである。




