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第十三矢 初陣

「見えてきたぞ。」


 福島正成がそう言うと、京の町に似た風情のある町が恵探軍の前方に見えてきた。


「あれが駿府か…まさにわしにふさわしい町よ。」


 恵探はニヤリと笑みをこぼしながら、今川二百年の歴史が詰まった駿府へと恵探は足を踏み入れたのだった。


 駿府に入ってすぐ、福島正成はどこか異常な空気を感じ取った。


(人が少ない…戦を避けるために逃げたのか…?)


 そんなことを正成は思いながらも、恵探軍はついに立派にそびえ立つ駿府館の門を突き破り、駿府館へと侵入していった。


「誰もおらぬ…」


 しかし、館内はもぬけの殻となっていた。


「隅々まで探せ!」


 恵探が兵たちに命じて義元及びその家臣たちを捜索するが、やはり誰もいない。

 となると考えられるのはひとつ。


「どうやら、義元らは賤機山城に籠城したようですな。」


 正成がそう結論を出すと恵探は高らかに笑った。


「ははは!芳菊丸は城へと逃げたか!やはりあやつは当主の器ではないわ!」


 すると、伝令が二人の元に駆けつけてきた。


「どうした。」


 正成が聞くと、伝令は冷や汗を垂らしながら言った。


「も、申し上げます!謎の軍勢が我らに迫っておりまする!」

「なんじゃと!?」


 二人が駿府館の外へ出ると、驚くべき光景があった。


「なんじゃ…なんじゃあれはぁ!」


 思わず恵探は後ずさりする。

 なんと、恵探軍に四千を超える兵が迫ってきていたのだ。


「おい!御爺の見方では芳菊丸に援軍など来ぬのではないのか!なあ!」


 そばで喚く恵探を尻目に、正成は考えを巡らせていた。


(あの兵らは一体どこから来たというのだ…)


 正成が目を凝らすと、その軍勢の先頭には代々今川家当主が被る一際輝く金色の兜が見えた。


「あれは…今川義元!」


 一方、義元軍の前方にいた崇孚は内心ハラハラしていた。

 それもそれはず。この四千の兵。実はそのほとんどが戦の経験がない駿府の住民である。

 義元軍は、前方には駿府館の兵を、後方には住民を配置することで敵軍に四千の兵が迫っているように見せかけていたのであった。


(だが、これはあくまで相手を怯ませるだけ…戦に勝つかはおぬしの戦いぶりにかかっとる。)


 俺はフゥーと息を吐いた。

 この戦は俺にとって初めての戦―つまり初陣であり、今から初めて人を殺しに行く。

 興奮か恐れからかめっちゃ心臓の音がバクバクしている。

だけどもう腹は決まった。

後はその一歩を踏み出すだけだ。


「皆、俺に続けぇ!」


 そうして俺は勢いよく先陣を切り、恵探軍に突撃していった。後ろに兵も続いた。まんまと崇孚の術中にはまった恵探軍は、勢いに乗る義元軍の前になぎ倒されていく。


(すんません!)


 俺は謝りながら敵兵を槍で倒していった。


 正成は驚きはしたもののすでに冷静さを取り戻していた。


「まだこの兵力差ならば勝機はある!おぬしはそこで堂々と構えておれ!」


 だが、恵探はそんな正成の言うことなど全く聞いていなかった。


(これは何だ。何が起こっている。わしは死ぬのか。……いやじゃ、死ぬのはいやじゃ!)


「ひ、ひぃぃぃぃ!!」


 恵探は怖じ気つき、涙や鼻水を垂れ流しながら一目散に逃げ出した。

 正成は唖然としたが、ハッと我に返る。


「敵を前にして我先に逃げ出す大将がおるかぁ!」


 正成は怒りが爆発してその場で怒鳴った。

 恵探の逃亡は兵たちにも瞬く間に伝わった。


「我らの大将が逃亡しただと…」

「この戦、我らの負けなのか!?」


(まずい!とにかく今は兵をまとめ上げねば…!)


 正成が兵をまとめようとしたがすでに時遅く、大将がいなくなった軍はあっという間に崩壊した。


「逃がすなあ!」


 岡部親綱を筆頭に義元軍はさらに勢いづき、次々に逃げ出す恵探軍の兵たちを倒していく。

 しかし、まだ正成は諦めていなかった。

 いや、正確には諦めきれなかった。


(敵の総大将、義元の首さえ取れば……!)


「正成様!」


 正成が声がした方を見やると、数十名の兵たちが正成の元に集まっていた。


「正成様、どうか我々にご命令を!」


 正成を見る兵たちの目は闘志に溢れていた。


(まだ勝機はある!)


 正成は兵らに号令をかける。


「今より義元の首を取る!皆、ついて参れ!」


 正成は混乱の中、まだ戦意がある兵らを率いて義元の首を狙いに行ったのであった。

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