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第十二矢 今川の当主

 恵探の軍勢は挙兵するやいなや、他の城には目もくれず義元の本拠地である駿府館へと進軍していった。


 その事実が駿府館にも伝わり、駿府館にいた家臣たちは慌てふためいていた。


「寿桂尼様が捕らえられただと…」

「恵探の軍勢はすぐそこまで迫ってきておる、周囲から兵を集めるのは間に合わんぞ!」

「恵探の軍勢は二千、対して我らの兵は六百ほど…勝ち目はあるのか…!」


 そんな中、今川家家臣・岡部親綱(ちかつな)は敵軍の武将を称賛していた。


(さすがは福島正成。見事な手際よ。)


 家臣たちの動揺も無理はない。

 恵探の軍勢は挙兵してから一日も経っていないのにも関わらず、すでに駿府館の目の先まで進軍してきていたのだ。

 この凄まじい速さでの進軍は戦の素人にはできない。おそらく、長年武田と渡りあっている福島正成が主導しているのだろう。


(この家臣たちの動揺を落ち着かせることができるのは当主様ぐらいなのだが…)


「寿桂尼様に仕立て上げられただけの飾り当主では無理であろうな。」


 親綱は誰にも聞こえない程度の声でボソッと呟いた。


「兄弟で戦いたくないな~、でも仕方ないか。向こうが戦いたがってるんだし。」


 家臣たちがワーギャーとしている大広間にて、俺はそう呟いていた。

 家臣たちは皆、不安げな表情を浮かべていた。


「この戦い、我らに勝機はあるのか…」


 そう言った家臣に俺は歴史上の事実を言った。


「義元は勝つよ。」


 いつものような声色にどこか力の籠もっている声が大広間に響き渡る。

 家臣たちが声の出所を一斉に見ると、そこにはどこか威圧感のある今川家当主が鎮座していた。家臣たちは驚く。

 この当主は、本当についひと月前まで僧侶だった男なのかと。

 吉田氏好が俺に献言する。


「恐れながら殿、そのような確証はどこにも…」

「だって義元は歴史上ここで死ぬ予定ないから。」


 それを聞いた家臣たちは目を見開いた。

 寿桂尼様が捕らえられ、敵軍はすぐそこまで迫っている。しかも、敵軍との兵力差は倍近く。

 そんな絶望的な状況なのにもだ。この殿は勝つ気でいるのだ。

 いつの間にか、家臣たちは高揚していた。勝てる確証などもちろんない。だが、家臣たちは不思議と勝てるような気がしてきた。義元の言動にはそれぐらいの安心感があった。

 そうして、一瞬にして義元は家臣たちをまとめ上げたのだった。親綱は今目の前で起こっている光景に驚いていた。


 このような男がかつて今川家におったのだろうか。かの氏親様でさえ、この場をこのように一瞬でまとめ上げることができたであろうか。

 …いや、氏親様でもできぬだろう。この方は飾り当主ではなかった。この方は今川を、いやもしかすると天下統一を果たす方かも知れぬ。


(この方が今川家をどう導きなさるか、そばで見てみたくなった!)


 親綱はこの瞬間、義元に真の忠誠を誓ったのだった。

 家臣たちが落ち着いたところで、瀬名氏貞が俺に進言した。


「殿。では今すぐ、駿府館から撤退をして賤機山城にて籠城いたしましょう。」


 駿府館は堀や石垣などの守りの造りがされているとはいえ、あくまでも館。なので戦時には、駿府館のすぐ近くにある賤機山(しずはたやま)城へと籠城して援軍を待つのが定石とされた。

 俺は少し考えて、決断を下した。


「籠城はしないよ。」


 氏貞は驚き、その理由を俺に聞こうとする。


「それは何ゆえに…」

「だって当主が城に籠もるなんてかっこ悪いじゃん。それに援軍なんて待てないし。」


 一瞬家臣たちはポカーンとしたのち、


「はははは!」


 と親綱が笑い出した。


「確かにかっこ悪うございます!やはり、ドシッと構えてこそ今川の大将でございまする!」


 それに続き、他の者たちも賛同した。


「そうですな…籠城したところで敵に勝つことはできませぬし。」

「だよね。てことで、ここで迎え撃ちます!」

「はっ!!!」


 そうして駿府館でも戦の準備を進めるのであった。


 大広間には俺と崇孚が残っていた。

 崇孚が少し呆れ気味に俺に言った。


「この兵力差でこの館で戦をするとは…おぬしも無茶をする。」

「そう?でも、いつ来るかわからない援軍を待つよりはマシでしょ。」

「まあ、おぬしらしいな。」


 すると、崇孚は何かひらめいたのか俺に提言した。


「たった今、奇策を思いついた。聞くか?」

「教えてー」


 崇孚の奇策を聞いた後、俺はいたずらっ子の顔になっていた。


「それめっちゃ面白そう!採用!」


 かくして、駿府館での戦が始まろうとしていた。

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